「通信の世界にもついに水冷が来たのかと、お客様はすごく興味を示されている」
光1波あたりの伝送容量を1.2Tbpsまで引き上げるデジタルコヒーレント光伝送技術の開発に成功した富士通。同社はこの技術を適用した光伝送装置を2023年度上期に製品化する計画だが、「1波1.2Tbps」という世界最大容量とともに注目されるのが、あわせて採用を予定する「水冷システム」だ。フォトニクスシステム事業本部 光ネットワーク事業部 ビジネス企画部 部長の中村健太郎氏によれば、通信事業者やデータセンター事業者からの反響は非常に大きいという。
トラフィックの急増に伴う消費電力の増大は、今や社会課題となりつつある。電力効率の改善に、光伝送の大容量化と水冷システムがもたらすインパクトは大きい。
テラビット超の伝送技術は直接的に、伝送容量当たりの消費電力を低減する。加えて、水冷によって冷却効率が改善できれば、間接的に消費される電力も削減できる。新型の光伝送装置では、システム全体のCO2排出量を従来製品比で70%削減できると試算している。
富士通 フォトニクスシステム事業本部 光ネットワーク事業部 ビジネス企画部 部長の中村健太郎氏(左)と、ネットワーク基盤技術開発統括部 統括部長代理の小牧浩輔氏
800Gbps伝送の長距離化も
商用ベースの1波1.2Tbps伝送技術を実現できたのには、NTT等も参画する「国プロの力が大きい」と、同事業本部 基盤技術開発統括部 統括部長代理の小牧浩輔氏は話す。キーとなったのが、世界で初めて変調速度140Gbaud(ギガボー)を達成したことだ。これにより、伝送距離も延び、主に100km以下で使われている800Gbps伝送の活用範囲を大きく広げられる可能性がある。
光伝送の容量を増やすには、信号の変調多値度を高める手法が用いられるが、その場合、伝送容量が大きくなるほど伝送距離は短くなる。1波で最大800Gbps伝送が可能な装置でも、100km超なら1波400Gbps、数百km超では100Gbpsというように距離に応じて伝送容量は小さくなる。
対して、今回開発した技術では、ボーレート(1秒間の変調回数)を高速化するアプローチを採った。一度の変調でより多くの値を表現するのではなく、1秒当たりの変調回数を増やす、つまり変調速度の高速化により、伝送容量を増大させながら、多値度の低い光信号をより遠くまで飛ばせるようになったのだ。
その効果を示したのが図表1だ。従来の100Gbaudと比較して、伝送容量を800Gbpsとした場合は伝送距離が4倍に拡大。小牧氏によれば、「東名阪500kmでの800Gbps伝送も視野に入る」。数十~100km程度のデータセンター間接続(DCI)なら1Tbps超も可能だ。中村氏は「最初はDCIから導入が始まるだろうが、それほど遅れずに、800Gbps長距離伝送の導入も進むだろう」と予想する。
図表1 ハイボーレートがもたらす効果