情報共有を進めたら社員が元気になった会社がある――。システムインテグレーター大手のTISだ。
社員を元気にしたのは同社が運用している社内SNS「TIS Communication Portal」(以下、TCポータル)である。ただし、そもそもの狙いは「組織風土を変えることではなかった」とTCポータルの創設にかかわり、現在は社内ベンチャーのSonicGardenで企業に社内SNS「SKIP」を提案している藤原士朗主任は話す。
TCポータルのマイページ画面。TIS内部の情報共有ツールとして誕生したこの社内SNSは、ソーシャルウェア「SKIP」として商品化。社内の停滞感を払拭したい企業向けに外販もされている |
n対nのナレッジ共有へ
TISが社内SNSの導入を決めたのは5年ほど前。「社員がもつノウハウをデータベースに集めて検索できるようにしたい」と、常務執行役員の会田雄一技術本部長兼CIOが、部下の倉貫義人・現SonicGardenカンパニー長に切り出したのがきっかけだった。当時の会田本部長のミッションは新技術を社内に広めることだ。新しい技術・製品に関する知識と活用経験を豊富にもつ有識者のナレッジやノウハウを個人のものにとどめず、会社全体の資産にするため、データベース化を考えたのである。
組織が大きくなるほど、互いの顔は見えにくくなるものだが、TISもその例に漏れない。会田本部長が入社した1978年当時、約500人だった社員数は現在では約3200人。入社したての頃は、ある技術に関する情報を入手したいと思ったら、誰に聞けばいいかがすぐに分かったという。しかし、組織が大きくなるにつれ、部門間には壁が生まれ、隣の部門のことすら見えなくなる。当然そうした環境では自分に有益な情報をもっている人を見つけることは難しい。
こうした課題を解消すべく、IT企業の多くは先進技術の情報を収集・整理し、社員に伝達するための部門を設けている。TISでもブログやWiki、コンテンツマネジメントシステムなど、「これは」という技術を積極的に採用しながら、最新技術情報を社員に提供しようと挑戦してきた。だが、担当する技術本部のスタッフの数が限られていることもあり、継続的かつタイムリーにレポートする仕組みは、なかなか構築し切れなかったという。ナレッジやノウハウのデータベースを構築したいと考えた会田本部長には「今度こそ」という思いがあっただろう。
これに対し、倉貫カンパニー長は、データベースの構築前に「まず社員が自由に意見を発信できる場をつくろう」と提案した。
従来の情報共有は、技術本部から社員へ一方通行で伝える1対nだった。だが、優れたノウハウをもっているのは現場にいる1人ひとりの社員。「現場の社員が横で素早く連携できるナレッジ共有を目指した」と、1対nではなくn対nによる情報共有を考えたと藤原主任は話す。そのために欠かせないのは、情報共有の場自体が魅力をもっていることだ。人が集まらなければ、人がもつノウハウも集まらないし、データベースも機能しない。「こんな技術知ってる?」「使ったことあるよ」と自由で気軽な雰囲気で会話する中で知りたいことを教え合う魅力的な場づくりがまずは大切という結論に倉貫カンパニー長は至ったのである。
「いい提案だ。その線でいこう」。会田本部長のゴーサインを受け、社内SNSのプロジェクトはスタートした。