―― RANの仮想化には、まったく新しい技術が必要だったと。
ミラー vRANが始まった当時は、それまでIT業界で使われてきたレガシーなクラウド技術しかなく、通信事業者の要求に応えられない状況でした。エッジ向けに開発されたStarlingXによってパフォーマンスは大幅にアップし、RAN処理のオーバーヘッドを半分に抑えたことで、vRANを取り巻く状況を一変させました。
エッジでは、「1台のサーバーにどれだけの基地局を接続して処理を賄えるか」が非常に重要です。つまり、StarlingXが可能にしたハイパフォーマンスと低レイテンシー、そして分散型のコントロールプレーンはTCO削減に直結するのです。
当時のウインドリバーはクラウド技術であまり知られている会社ではありませんでしたが、通信事業者のニーズに完璧にフィットしたことで我々の技術が選ばれたわけです。当社は、オープンソースであるStarlingXのライセンスプロダクトである「Wind River Studio」を提供しており、エッジサーバーのテレメトリーデータの収集機能や、AI/機械学習技術を活用した自動化機能、オーケストレーション機能などを含めて通信事業者をサポートしています。もちろん、新機能を開発した際には、それをオープンソースコミュニティにも提供しています。
このウインドリバーの技術を使って最初に5G vRANを実現したのが米国のベライゾンです。全米でvRANを商用稼働してすでに数年が経ちましたが、これほどの規模でvRANを商用展開している例は他にありません。そして、欧州で初となったボーダフォンのオープンRANも我々の技術を採用しています。
ドコモとオープンRANを海外展開
―― 日本国内での取り組み状況も教えてください。
中田知佐氏(ウインドリバー 代表取締役社長。以下、中田) 2021年にNTTドコモがスタートした「オープンRANエコシステム(OREC)」の発足メンバーとなり、その仮想化基盤を提供しています。ORECは、オープンRANの推進団体である「O-RAN Alliance」で仕様化をすすめているvRAN基地局の海外展開を目指しており、その活動の中でウインドリバーは、富士通やエヌビディアと構成するワーキンググループにおいてvRANの実証実験を行っています。
また、KDDIが2022年2月にWind River Studioを採用して同社初の仮想基地局を商用化しています。
ウインドリバー(日本法人) 代表取締役社長の中田知佐氏
5Gビジネス推進へ体制を強化
―― 仮想化・オープン化によって通信事業者が目指すのは、第1にベンダーロックインを回避することです。その意味で、通信事業者向けビジネスは様変わりしていますね。
中田 我々も、そして通信事業者のお客様もビジネスモデルが変わっています。
以前のウインドリバーのビジネスは基地局ベンダーにOSを提供するというものでしたが、今では我々から通信事業者に直接、ソリューションや技術、サポートを提供するモデルに変わりつつあります。これは、国内も海外も同様です。
ミラー vRAN、オープンRANでパラダイムシフトが起こりました。通信事業者はイノベーションとハードウェア、仮想化基盤、アプリケーションの各レイヤで好きなベンダーの製品・技術を入れ替えられる自由度を求めています。すべてのレイヤで常に健全な競争が生じることで、通信事業者は主導権を握りながらビジネスを展開できるようになります。
中田 通信事業者がこの変革を進めるためのサポートを充実させるため、我々はお客様に対して、技術・サポートを直接提供するための体制を強化しています。グローバルで培った経験や知見を共有しながら、日本でもさらに技術者の採用と体制強化に注力していきます。