NETGEARは、米国NETGEAR, incのネットワーク製品のブランドだ。国内ではネットギアジャパン(以下ネットギア)が、一般消費者から中小企業をターゲットにしたネットワークスイッチ、Wi-Fiアクセスポイント等のネットワーク製品を販売している。同社は、他社にないネットワークスイッチの製品ラインとして“ProAV”と呼ぶ、映像・音声伝送に特化したスイッチ製品を持つ。最大の特徴は、デジタルオーディオやデジタルビデオのIP伝送用に特化したプリセット設定を持つことだ。
AV機器は大きく、「ブロードキャスティング」「プロフェッショナル(商用)」「一般消費者(家電)」に分類できる。製品への要求スペックがそれぞれ異なるだけでなく、販売方法・商習慣などが異なっており、それぞれに専門のベンダー、流通業者が存在する。「ブロードキャスティング」は、いわゆる放送局向けの放送機器だ。最も要求性能が厳しく、どこの国・地域でも放送局の数は限られるが、案件単位の売上規模は大きい。「プロフェッショナル」は、プロダクションやスタジオ、ホールなどの施設に加え、大規模イベントや企業内ビデオ配信、セキュリティカメラなどの分野が含まれ、市場も大きく、今後も成長が見込まれる。特にコロナ禍では多くのイベントやコンサートがオンラインライブ配信に乗り出し、逆に成長が始まった分野でもある。また、デジタルAVのIP配信では、多数の配線が不要となるため、施設関連でも取り込むところが増え始めた。ネットギアの杉田哲也氏によれば、「ワールドワイドでAVのIP伝送をサポートしていくことを会社の方針」としているとのことだ。
ネットギアジャパン 社長 杉田哲也氏
AVのIP伝送にはいくつかのメリットがある。現状、AV技術はデジタル化されているものの、同軸ケーブルを使ったAV専用インターフェースSDI(Serial Digital Interface)での接続が行われているからだ。接続方法がPoint-to-Pointとなるため、配線の集約もできない。こうしたデジタルAVの伝送をIP化することで、SDI伝送では何本もの同軸ケーブルを使っていたAV伝送を1本のイーサネットにまとめることが可能だ。10Gbps超の大容量ネットワークを用いることで、圧縮ビデオだけでなく非圧縮のビデオデータも扱うことが可能になる。その他、施設の機器では、PoE(Power over Ethernet)により機器側に電力を供給することも可能だ。
もちろん、コンピューター用には、USBや無線LANなどで接続する4KのWebカメラなどがあるが、光学系や既存のAV機器との接続を考えると、画質や音質などの点でプロフェッショナル向けのAV機器の代用は困難だ。
当初は、デジタルオーディオでメーカー固有技術を使うIP伝送が行われたが、現在ではその延長として圧縮ビデオを扱うIP伝送方式が増えてきた。すでにデジタルオーディオでIP伝送を行っている場合などに、同一メーカーのビデオIP伝送を採用することがある。こうしたAV伝送技術は、まだ、ベンダー固有技術もあり、ベンダーのAV機器が直接、あるいはコンバーターなどを通して伝送のIP化を行う。こうした機器を採用した場合、IPネットワーク側は、AV機器側の要求に合わせる必要がある。
AVのIP伝送では、蓄積を前提としたIT分野のデータのIP伝送と違い、原則リアルタイム伝送を前提にする。このためQoS(Quality of Service)により、パケット転送時の遅延とゆらぎを最小限に抑える必要がある。送られる音声や映像のパケットは、すべて再生タイミングが厳密に決まっており、大幅な遅延は、再生の中断につながりかねない。