KOIL MOBILITY FIELDを運営するハフト(旧社名ドローンワークス)代表取締役の今村博宣氏(左)と、
同拠点内に「ミリ波ラボ@柏の葉」を開設したビーマップ 執行役員常務 CTO
ワイヤレス・イノベーション事業部長の須田浩史氏
2017年に日本最大級のLPWA実証環境を構築し、街ぐるみでIoTソリューションの開発と社会実装を推進している柏の葉スマートシティ(千葉県柏市)。2021年6月には、全長400mのサーキットやドローンフィールドを備える屋外ロボット開発・実証拠点「KOIL MOBILITY FIELD」を開設し、マイクロモビリティやドローン等の開発、社会実装に向けた取り組みを加速させている。
そして2022年2月、同拠点内に新たな無線通信技術の実験場がオープンした。60GHz帯を使う固定ワイヤレス通信「Terragraph」の実験フィールド「ミリ波ラボ@柏の葉」だ。Terragraphの可能性について、KOIL MOBILITY FIELDを運営するハフト代表取締役の今村博宣氏はこう話す。
「移動ロボットの開発・実証には通信が不可欠だ。単に広場があるだけではダメで、カメラで監視したり、トラブル発生時には遠隔操作したりするための高速通信が必要になる。Terragraphがあれば開発者にとって理想的な環境が作れるし、街中に高速ネットワークを展開しやすくなり、ロボットの社会実装にも役立つ」
2021年に柏の葉にオープンした屋外ロボット開発・実証拠点「KOIL MOBILITY FIELD」。
サーキットを活用した移動ロボットの開発・実証、ドローンや建設重機の遠隔操作実験などが行われている
Terragraphは「11ayプラスα」
Terragraphとは、Facebook(現Meta)が2016年に立ち上げたプロジェクトだ。1Gbps超のマルチホップ通信が可能な無線機をビルの屋上や街灯等に設置し、光ファイバーを使わずにギガビットネットワークを構築できるようにすることを目的にスタートした。
このプロジェクトには、ネットワーク機器ODMメーカーのAccton Technologyや、屋外用無線伝送機器のSikulu、RADWINなど6社が参画。海外ではTerragraph対応製品を使った商用サービスも始まっている。
例えば、マレーシアのペナンでは企業向けのFWA(固定無線アクセス)に採用。米国でも、サンフランシスコ湾の島にある都市アラメダでFWAサービスが提供されている。
Accton製品を国内で販売し、ミリ波ラボ@柏の葉を開設したビーマップ 執行役員常務 CTO の須田浩史氏によれば、Terragraphの最大の特徴は、マルチホップ通信によって、光ファイバーに比べて低コストに大規模なメッシュネットワークを構築できる点にある(図表1)。
図表1 Terragraghによるメッシュネットワークとアクセス網のイメージ
Terragraphのネットワークは、ディストリビューションノード(Dノード)と、クライアントノード(Cノード)の2種類のノードで構成される。ノード間は、60GHz帯を利用する無線LA N規格IEEE802.11ayを使って中継。Metaが中心となって変調方式やノードの仕様等を定義し、ノード間のルーティングには同社が2017年にオープンソース化した「Open/R」を使用している。
豪雨でもリンク切れなし
Dノードはポイントツーポイント(P2P)およびポイントツーマルチポイント(P2 MP)接続をサポートしており、「Dノードをつないで数kmを超える大規模メッシュネットワークが構築可能だ」(須田氏)。
Accton製のDノード「MLTN-360」は最大200mまで通信が可能。また、パラボラアンテナを用いて最大1kmの長距離通信が可能な新機種も間もなく国内販売を開始する。
CノードはCPE(宅内通信装置)として機能する。Dノードで構築した基幹網からビルや家屋等に無線ネットワークを引き込むのに用いて、Wi-Fiアクセスポイントや監視カメラ、IoTセンサー等を接続できる。
60GHz帯を使用するため無線免許が不要なこと、かつ「5GHz帯と違って電波の干渉源も今のところない。混信のない状態で、非常に安定した通信ができる」(須田氏)こともTerragraphのメリットだ。通信速度は1チャネル当たり最大3.8Gbpsで、上下それぞれ1.9Gbps。ミリ波ラボでは「理論値に近い1.7Gbps程度が安定して出せている」。
屋外で60GHz帯を使うとなると雨による減衰が懸念されるが、実証によりこれにも耐性があることがわかった。この5月には瞬間的に1時間で90mmに相当する豪雨を経験したが、リンク切れはなし。ミリ波ラボには「Acctonも台湾からリモートでアクセスし、検証やデバッグを行っている。積雪の多い地域での使用を想定して、アンテナ面の着雪を防止する塗料を使った実験も行う予定だ」。
ネットワークの管理は規模に応じて2種類の方法で行う。数ノード程度の小規模な場合はDノードに内蔵されたコントローラーで設定管理が可能。大規模向けには、サーバーで運用するためのオープンソースの管理システムが用意されている。