中編では、外資系ベンダーにおける今後のグローバル戦略を考察する。今回の連載では判断材料の収集を目的に、日本に進出している外資系ベンダー4社(エリクソン、NSN、ファーウェイ、ZTE)のキーマンへの取材を敢行した。考察の妥当性を裏付ける目的で、適宜各キーマンのコメントを引用する。
傾向その1: 端末を含めたフルライン戦略を展開する中国勢
今回取材を行った4社のWebサイトをご覧頂くと分かるが、通信事業者の“本丸”領域である通信インフラという側面に対しては、どのネットワークベンダーもすべての領域で製品・サービスのラインナップを拡充させている。“事業ドメイン論”において各社の違いを認識することはできない状況だ。
各社がフルライン戦略を展開する以上、特定の1社が通信インフラを構成する全領域で強みを発揮するのは困難であり、各社の得意不得意は顧客への導入実績や標準化活動に対する貢献度、取得特許数などの形で現れることになる。モバイルのアクセス系では相対的に見てエリクソンやファーウェイが強みを発揮しているが、コアネットワーク系になるとNSNの強さが目立つというのが市場関係者の平均的な見解ではなかろうか。
しかしながら、「当社の場合、端末事業に力を入れている」(ZTEジャパンの索社長)の言葉に表れている通り、中国ベンダーは通信インフラ事業と携帯端末事業を共存させている点に、通信ビジネス全体に対する大元の考え方が欧州ベンダーとは異なっている点が特徴的だ。
欧州ベンダーは規模の拡大を志向して通信インフラ事業に関するM&Aを展開する一方で、これまでに携帯端末事業を切り離す(または通信インフラ事業が切り離される)ことで、効率性の実現を図ってきている。それに対して中国ベンダーは、両者が一体であることの有用性を訴求し続けており、急成長を支える1つの要因となっている。
今後、特に市場の拡大とサービスの高度化が見込まれる新興国マーケットでは、整備すべき通信インフラの技術的方向性と普及させるべき端末を同時に検討しなければならない状況下にあるため、中国ベンダーが掲げるこの“思想”が高い評価を獲得することになるのであろう。
傾向その2: 全プレイヤーが注力する“サービス型”事業
通信インフラビジネスのグローバルトレンドと日本市場の実態との間で、最も大きな“乖離”として認識できたのが、各社が注力する“サービス型”事業の存在だ。
日本の通信事業者は長年、設備と関連ソフトウェアをネットワークベンダーから購入しても、その運用は自社(または自社グループ)で手掛けてきた。だが、グローバルの潮流としては、ネットワークベンダーが提供するマネージドサービスを利用するのはもはや一般的な現象らしい。
“サービス型”事業が成長する背景には、通信事業者サイドにおける高いコスト削減志向が挙げられる。「欧州系キャリアにおける収益性の悪化は深刻な状態。打開に向けて我々が協力しなければならない」(NSNの小津社長)、「マネージドサービスを展開するにあたり、通信事業者の人間を何千人単位で引き取る。引き取ったうえで我々が合理化を図る」(日本エリクソンの藤岡CTO)とのコメントからも分かる通り、“サービス型”事業の存在は、もはや通信事業者が事業運営を続けていくうえでの生命線となっている模様だ。
また、“サービス型”事業に言及するうえで無視できない効果・効用は、通信事業者のグローバルオペレーションそのものが最適な状態で支えられているという側面だ。欧州のメガキャリアは多国展開を図ることで、グローバルレベルでコスト削減だけでなく、オペレーション品質の向上にも注力しており、質の高い標準化されたオペレーションをグローバルに適用できるメリットは計り知れないものがある。「彼らの各国オペレーションを熟知している我々が、一箇所で集中管理するメリットはメガキャリアにとっても大きい」(NSNの小津社長)、「自社が販売した設備だけでなく、他社のものまで含めてオペレーションを受託していくのが基本戦略」(日本エリクソンの藤岡CTO)といったコメントに見られる通り、通信インフラ全般に関するベストプラクティスは、ネットワークベンダー側に存在しているといえそうだ。