クラウドビジネスの深層 [第1回]クラウドビジネス成功の鍵は「垂直戦略」か「水平戦略」か?

クラウドに舵を切る企業ユーザー。この大潮流はネットワーク系のプレイヤーにどのようなビジネス機会をもたらすのか。連載第1回はクラウドビジネス全体を俯瞰しよう。

「クラウドコンピューティングの波には逆らえない。クラウドは使えるのかと疑問を持っていた企業が今、クラウドに大きな関心を寄せている」

大手NIer/SIerの幹部は異口同音にこう語る。同様のことは約10年前にもいわれた。「インターネットの波には逆らえない」と。それを思い起こせば、10年後のICT活用の基盤はクラウドになっていると考えることが当然だろう。そうなれば、NIer/SIerのビジネスの大半がクラウド基盤を対象とするものとなるはずである。

この連載では、クラウドをめぐって現在起きていること、そしてこのトレンドにおいてNIer/SIerにどのようなビジネス機会が生まれるのかをレポートしていきたい。

1回目はクラウドをめぐるプレイヤーの動向を俯瞰し、次なるビジネスモデルを考えてみたい。まずは、クラウドの正体を整理しておこう。

図表1 ICT各社のクラウドサービスの取り組み
ICT各社のクラウドサービスの取り組み

2種類のクラウド

クラウドコンピューティングといえば、読者の多くがグーグルを思い浮かべるのではないだろうか。グーグルはインターネットをべースにGoogle Appsの名称でオフィスアプリやメールサービスを提供している。グーグルのクラウドサービスのユーザーは、個人や中小企業がメインと見られてきたが、大手企業の利用が日本でも始まっている。そのグーグルと肩を並べる存在がアマゾン。同社はCPUやストレージなどのIT基盤をインターネットで利用できるサービスを開始している。

これらのクラウドサービスは、インターネット上に用意されたリソース(アプリケーションソフトやITインフラ)を数多くのユーザーが共用するもので、「パブリッククラウド」といわれるものだ。通常、クラウドといえば、パブリッククラウドのことを指す。

パブリッククラウドに対して、「プライベートクラウド」と呼ばれるクラウドコンピューティングも台頭している。プライベートクラウドとは、企業の情報システムをクラウド化することを指す。企業の社員は社内のデータセンターで提供されるサービスを利用することになるのだが、実はプライベートクラウドには2つの定義が存在している。1つは、前述した社内データセンターをはじめとする企業内ICTインフラをクラウド化すること。ICT業界の多くはプライベートクラウドをこう捉えている。もう1つの定義は、パブリッククラウド上に自社に占有の情報システムを構築・利用するというものだ。

この2つの定義の最大の違いは、共用型か否かという点にある。前者の場合は、自社内ITインフラをクラウド化するので非・共用型であり、後者は共用型だ。企業が関心をもつ、IT利用コストを比較すると、共用型でありながら占有型の後者のほうが大きな低減効果が得られるだろう。一方で、前者は、サービスレベルやセキュリティレベルを自ら設定・実現できるというメリットがある。ここでは、社内ITインフラをクラウド化することがプライベートクラウドだという前者の定義で記述していきたい(共用型でありながら占有型のクラウドは、パブリッククラウド利用の一種といえそうだ)。

プライベートクラウドにも多くの企業が参入している。SIerやNIerにとって、プライベートクラウドのビジネスモデルは従来のビジネスモデルと大きな違いがないことが魅力だ。

クラウドコンピューティングは、ユーザー企業サイドがITインフラを所有せず、サービスを利用する形態を指すわけだが、プライベートクラウドの場合はユーザー企業がITインフラを所有するわけで、アプリケーションソフトやサーバー、ストレージ、ネットワーク機器などのITリソースをユーザー企業に提供するという従来のビジネスモデルがそのまま通用する。

しかも、プライベートクラウドの市場はパブリッククラウド以上に大きい。富士通によれば2008年の国内IT市場は11兆6909億円。そのうち、クラウドサービスが占めるのはわずか1.3%で1538億円。オンプレミス(企業内で運用されるITシステム)が11兆5371億円と圧倒的に多くを占めている。それが7年後の2015年にはクラウドサービス市場が16倍に成長し、2兆5280億円に達するというのが富士通の試算だ。

しかし、オンプレミス市場は減少を続けるも、依然として9兆6527億円とIT市場全体の80%を占めると富士通は見ている。このオンプレミス市場がプライベートクラウドの対象となる。もちろん、すべてがクラウド化されることはないだろうが、可能性としての市場は大きい。

月刊テレコミュニケーション2010年2月号から転載(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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