IoT/AI技術が普及し、サイバーフィジカルシステム(CPS)の社会実装が進む2020年代は、人・モノの動きをデジタル化するセンサーが社会の隅々に埋め込まれていく“センシングの時代”になるかもしれない。
ただし、その基盤となるセンサーネットワークの構築は言うほど容易くはない。赤外線センサー等に代表される物理センサーを大量に設置し、電源を供給してネットワークに接続して運用し続けるにはコストがかかる。数が膨大になれば、例えばセンサーの向きがずれたり、バッテリーが切れたりするたびにかかるメンテナンスの手間も計り知れない。
監視カメラならば1台で広範囲の映像を撮りAIで解析できるが、こちらは“見えすぎる”ことがかえって仇となる。プライバシーを侵害するリスクが大きい。
こうした課題を解決するソリューションとして有望視されているのが「Wi-Fiセンシング」、電波によって人・モノの動きを検知する技術だ。
「人か、ペットか、ルンバか」この分野をリードするのが、米メリーランド大学発のベンチャーであるOrigin Wirelessだ。日本法人の代表取締役を務める丸茂正人氏は「人が移動している、侵入してきた、転倒した、さらに呼吸していることまでわかる」と話す。
Origin Wireless Japan 代表取締役の丸茂正人氏
同社の独自技術「WirelessAI」は、Wi-Fi電波の反射によって生じる“乱れ”を捉え、AIで変化の起因を特定するという手法を採用する。反射が生じる屋内であれば、送信機と受信機を設置するだけで、ある程度広い空間内の人の動きやドアの開閉などを検知することが可能だ。駅のプラットフォームやビル谷間のような半屋内でも使用可能なことを実験で実証している。
同技術の注目すべき点はもう1つある。ディープラーニングによって検知・判定精度を高められることだ。検知データをAIに学習させ、その空間特有の変化に合わせて検知精度を高めていくことで、使えば使うほど“わかること”が増えていく。例えば、「検知した動きが呼吸による胸の鼓動よりも小さければ、ペットではないか、あるいはルンバじゃないかといったことが徐々に特定できるようになってきている」(丸茂氏)。