市場環境や現場ニーズの急変にも慌てず騒がず対応できるよう、常にリソースには余裕を持たせておく――。
ビジネスでは当然の鉄則だが、こと通信ネットワークにおいては、これがなかなか難しい。需要に対して常にギリギリの帯域設計を強いられ、要件変更やトラブルへの対応をエンジニアの汗と根性で乗り切るような綱渡りを続けている企業も少なくないはずだ。
企業活動が通信ネットワークに大きく依存し、かつ要件・ニーズも多様化した今、そんな旧態依然の設計・運用法からは早々に脱却すべきだ。これをまさに体現したのが、KADOKAWAグループが運営するサービスのインフラ開発・運用等を担うKADOKAWA Connectedである。同社でネットワークを始めとするインフラ全般のストラテジストとして戦略を立案する東松裕道氏は、一般的な企業の実態との違いを次のように話す。
「通常のネットワーク設計なら、例えば次のようなことを考える。10GbE×2本のリンクアグリゲーションを組んで20Gで頑張ろう。何かあれば10Gに縮退するかもしれないから、そのときに10Gを超えるトラフィックをどう処理するか対策を考えよう、と。一方、我々は予め十分過ぎるほどの帯域を確保し、『100Gを何本使うか』を考える。普通のやり方ではコストの制約があって不可能だが、その制約を取り払うことによって、『じゃぶじゃぶ帯域を打っておいて、後でいちいち手を入れないで済むようにする』という戦略が可能になった」
KADOKAWA Connected InfraArchitect部の東松裕道氏
コストの制約を取り払うとは言っても、もちろん、カネを無尽蔵に注ぎ込むわけではない。圧倒的なコストダウン策がその下地にある。カギは光トランシーバーだ。
コストダウンの先にあった特大のインパクト
KADOKAWA Connectedは約5年前から、スイッチ/ルーター等に用いる光トランシーバーのオープン化を進めてきた。ネットワーク機器メーカーが提供する純正品に代えて、サードパーティ製の非純正トランシーバーを採用したのだ。マクニカが提供するⅡ-Ⅵ社製トランシーバーをはじめ数社の製品を導入している。
非純正トランシーバーは、純正品に比べて圧倒的に安い。これにより調達コストを抑制できるのに加えて、保守が不要になることでランニングコストも下がる。「2桁億円、もしかすると3桁億のコスト抑制も見込めると考えた」(東松氏)のが、オープン化戦略の発端だ。
コストの縛りから解放されれば当然、ネットワーク設計のアプローチは変わる。「トランシーバーが高価だと、『この構成しかできない』と設計の選択肢が狭まる。その制約がなくなることは相当なインパクトだった」と同氏。加えて、障害や故障対応の負荷も大きく削減できた。