ネットワークにも脱炭素”が求められている。
菅義偉首相は2020年10月、国内の温室効果ガスの排出を2050年までに、実質ゼロとする方針を表明した。従来もCSRやSDGsなどを背景に、地球環境に配慮した取り組みが求められていたが、脱炭素に向けた動きが日本でいよいよ本格的に加速することになる。
なかでも通信業界は、脱炭素社会の実現に向けて重要な責任を担っている。理由は単純で、消費電力が膨大だからだ。ICTネットワークは世界の電力の1.15%を消費し、二酸化炭素の排出量の0.53%を占めていることが、エリクソンとTeliaから報告されている。国内でもNTTグループの使用電力は、日本全体の商用電力の1%を占めているのが現状だ。
通信キャリアの意欲も高い。「ネットワークインフラの運用コストにおける電力の割合は少なくない」とエリクソン・ジャパンの藤岡雅宣氏が指摘するように、電力消費量の削減はコストの削減に直結するからだ。「NTTドコモでは2030年までに、トラフィックあたりの電力消費量を、2013年に比べて10倍効率化させる目標を掲げているが、すでに9.6倍の効率化まで来ている」とNTTドコモの西島英記氏は明かす(図表)。
図表 NTTドコモの環境負荷低減に向けた3つのアプローチ
本丸は基地局通信キャリアが特に注力しているのが、基地局の消費電力削減である。NTTドコモは1年間に約30億キロワット時(kWh)の電力を消費しているが、その約7割が基地局関連である。そのため、「基地局内のハードウェアなどは日々改善したものを導入している」とNTTドコモの硎琢己氏は説明する。
基地局は全国にあるが、トラフィック量が多いのは圧倒的に都市部である。「実はそれ以外の75%の基地局が扱っているトラフィック量は25%ほどにすぎない。この75%の基地局の電力をいかに効率化するかが、脱炭素のポイントになる」と藤岡氏は解説する。扱うトラフィック量が少ないということは、それだけ設備に余裕もあり、効率化の余地も大きい。具体的には、トラフィック量などに応じて柔軟に基地局機能の電源をON/OFFすることが消費電力の削減につながる。
エリクソン・ジャパン CTO 藤岡雅宣氏
例えばエリクソンでは、「MIMO Sleepモード」という機能を用意している。モバイル通信は、複数のアンテナを用いるMIMO技術により通信品質を向上させているが、このアンテナの電源をオフにする機能だ。「基地局にアンテナが4つあるということは、4つの回路があるということ。トラフィック量が少ない夜間などは1つや2つのアンテナでトラフィックをさばくことが可能だ」(藤岡氏)。
ボーダフォンはポルトガルにおいて、機械学習により最適な時間にMIMO Sleepモードを適用できるようにスケジューリングし、各基地局の電力を平均14%削減することに成功しているという。
NTTドコモは、基地局の消費電力を抑える取り組みとして、「グリーン基地局」も展開している。「ソーラーパネルによる太陽光発電の電気を鉛やリチウムの蓄電池に貯め、夜間や停電時にも使えるようにする仕組みだ」とNTTドコモの沖本秀樹氏はグリーン基地局について説明する。
NTTドコモのグリーン基地局(北海道)の外観
2021年2月時点で「全国で200局以上にグリーン基地局の仕組みを導入している」(沖本氏)という。