興味深い調査結果がある。
セキュリティインシデントを起こしたアプリのサービスを、ユーザーは事件後も使い続けるのか─。「サービスの利用を中止した」という回答は、アジア8カ国の平均でわずか4%。日本のユーザーの回答はアジア平均よりも高いが、それでも7%にとどまっている(図表1)。
図表1 セキュリティインシデントがアプリの利用動向に与える影響
「セキュリティインシデントが発生しても、利用しないと生活上困るアプリは、ユーザーはその後も使い続ける。アプリに依存して日々の生活を送っている人がどんどん増えているということだ」
調査を行ったF5で、日本・中国およびアジア太平洋地域の上級エバンジェリストを務める野崎馨一郎氏はこう説明する。
同調査はコロナ禍で世界が大きく変わり始めた今年3月~4月にかけて実施され、アジア8カ国(日本、オーストラリア、中国、インド、インドネシア、香港、シンガポール、台湾)の計4107名のユーザーから回答を得た。調査の詳細は、レポート「F5 Curve of Convenience 2020」にまとめられている。
「一番怖いのは委縮」セキュリティインシデントがニュースにならない日はない。最近、国内で高い注目を浴びた事件といえば、やはりドコモ口座の不正利用が挙げられるだろう。10月13日18時の時点で、総額2850万円(127件)の被害が明らかになっており、NTTドコモや不正チャージが発生した各銀行のブランドイメージは大きく毀損した。
「お詫び」を掲載するドコモ口座のWebサイト
他山の石としたいセキュリティインシデントがまた起きてしまったわけだが、「私が一番怖いと思っているのは、皆さんが委縮してしまい、新しい取り組みを進めにくい環境になってしまうこと」と野崎氏は語る。
とりわけ懸念されるのはフィンテックへの影響だ。この1~2年でキャッシュレス化が大きく進展した日本。実はF5の調査では、日本の決済・バンキングアプリの利用率は、アジアの中で突出して高くなっている(図表2)。せっかく盛り上がってきた機運に水を差しかねない。
図表2 決済・バンキングアプリの利用率が突出して高い日本
ただ、技術的な観点から見て、今回の事件がフィンテックのセキュリティへの信頼を根底から揺さぶるものだったかというと、そうとは言い切れない。ドコモ口座事件は、銀行口座番号と暗証番号を不正に入手した第三者によって引き起こされた。
「公式発表によると、そもそも口座情報が漏れており、その口座情報が悪用された。であれば、口座情報が全部盗まれていた状態で起きた事件であり、APIの改ざんのようなシステムに対する高度なハッキングが行われたわけではない」
野崎氏はこう説明したうえで、「とはいえ『オープンバンキングでこんなことが起きたら、どうなるのだろう』と心配されている方は多い」と続ける。