低消費電力・広帯域・長距離通信を特徴とするLPWA(Low Power Wide Area)は、携帯電話用の周波数を使用する「ライセンス系LPWA」と無線免許が不要な920MHz帯を利用する「アンライセンス系LPWA」に大別される。
ライセンス系LPWAは通信キャリアの基地局を用いるため、アンライセンス系LPWAと比べると運用コストは高めだが、カバレッジが広く、安定したサービスを提供することができる。
移動通信事業者の業界団体であるGSMAによると、ライセンス系LPWAは129の国・地域で展開されており、このうちNB-IoTが93の国・地域とLTE-Mの36の国・地域を大きく上回る(2020年1月時点)。
NB-IoTはNarrow Band IoTの略称であることからも分かるように、180kHzと非常に狭い帯域幅を使用する。通信速度は上り62kbps/下り26kbps。狭帯域かつ低速のため消費電力が少なく電池による長時間駆動を可能にするほか、運用コストも抑えられる。
こうしたシンプルな特性を活かし、海外では主としてスマートメーターやスマートパーキングに採用されている。国策として政府が導入を推進している中国を中心に今後も普及が進み、2025年には22億台のデバイスが接続するとの予測(Counterpoint Research調べ)もある。
国内では、もともとNTTドコモとソフトバンクの2社がNB-IoTの商用サービスを提供してきた。しかしドコモが3月末をもってサービスを終了したため、現在はソフトバンクが唯一NB-IoTを提供する事業者となっている。
「IoT化の目的に合わせて最適な通信規格を提案するため、豊富な選択肢を用意する」という方針を掲げるソフトバンクは、NB-IoTについても当初から積極的に取り組んできた。GSMAで標準化が完了した直後の2016年11月に実験試験局免許を取得、2018年4月に開始した商用サービスでは「月額10円~」という破格の料金体系が大きな話題を呼んだ。
NB-IoTは、ごく少量のデータを少ない頻度で安価にやり取りする用途に適する。しかし実際にそうしたユースケースは限られており、「NB-IoTに興味を持って相談に来られても、技術検証を行ってみるとデータ容量が大きかったり頻度が多く、NB-IoTには向かない案件が散見される」とIT-OTイノベーション本部 CoE統括部 推進部長の朝倉淳子氏は指摘する。
通信速度の遅いNB-IoTは、FOTA(Firmware Over The Air:無線通信によるファームウェアの配布・更新)に時間がかかるため、更新作業を完了できない確率が高まったり、バッテリー消費が多くなるという「弱み」がある。
「海外と違って日本はデバイスを常に最善の状態に維持したいという目的からFOTAに対するニーズが高い。しかし、NB-IoTでFOTAをスムーズに行おうとすると技術的な工夫が必要になる。結果的にデバイスコストが上がり、採算が合わなくなってしまう」(朝倉氏)
そのため、制度整備が完了した直後はIoT向け通信の“大本命”として注目を集めていたNB-IoTも、いざ商用サービスが始まってみると導入が一向に進まなかった。FOTAに適したLTE-Mや、NB-IoTよりも低コストなアンライセンス系のSigfoxなど他のLPWA規格の方がより多くの導入事例が生まれている。