Beyond 5G(6G)では、5Gの特徴である「高速大容量」「低遅延」「多数同時接続」のさらなる高度化にとどまらず、これまでとは別方向での技術革新も期待される。その1つに、「超カバレッジ拡張」がある。
超カバレッジ拡張とは、LTEや5Gなど従来の移動通信システムではカバーできなかった空や海、宇宙空間までエリア化し、どこでもつながる環境を構築することだ。ドローンや「空飛ぶクルマ」、船舶、宇宙ステーションなどにも通信サービスを提供することを目指している。
この超カバレッジ拡張は、静止衛星や低軌道衛星、HAPS(HighAltitude Platform Station:高高度疑似衛星)の利用により実現される。
なかでも昨今、注目が高まっているのがHAPSだ。
HAPSとは、携帯電話の基地局装置を搭載した無人飛行機を成層圏に飛行させ、広域のエリアに通信サービスを提供するシステムのこと。国内では、ソフトバンクの子会社HAPSモバイルが実用化に向けた取り組みを進めている。
HAPSが注目される最大の理由が、そのカバーエリアの広さだ。
HAPSモバイルが開発した「HAWK30」の場合、1機で半径100㎞、直径200㎞という大規模なサービスエリアを構築できる。40機もあれば日本全体をカバーできる計算だ。数千~数万局を必要とする地上基地局と比べて、効率的なエリア展開が可能となる。しかも地上基地局からでは届かない上空もエリア化できる(図表1)。
HAPSモバイルの「HAWK30」は、1機で直径200kmをカバーすることができる
図表1 「HAWK30」のエリアカバーのイメージ
成層圏は、対流圏と中間圏の間、高度約20㎞に位置する。「この高さが、通信インフラでは重要な意味を持つ」とHAPSモバイル 取締役 事業管理本部 本部長の湧川隆次氏は話す。
基地局は、数十mあるいは数百mの高さに設置するだけでも障害物の影響を受けにくくなり、カバーエリアが一気に広がる。このため、ソフトバンクでは気球を使った基地局「係留気球無線中継システム」を開発し、災害時の臨時回線用に全国各地に配備している。
高度約100mを飛行する気球は半径10㎞のエリアをカバーすることが可能だが、天候の影響を受けやすく、強風時には使用できないといった制約がある。
これに対し、成層圏は雲よりも高度が高く、気流が安定している。HAPSなら年間を通して安定した飛行制御を行うことができる。
その一方、地上から約3万6000kmの上空を飛行する静止衛星と比べると地球から近い位置にあるため、低遅延かつ高品質な通信を提供することが可能だ。
さらに、最新の通信技術により、地上基地局と同じ周波数帯を干渉もなく利用できるという特徴もある。
HAPSの通信システムは、地上基地局間との通信「フィーダリンク」と、地上の携帯電話端末との通信「サービスリンク」で構成される。このうちサービスリンクについては、国内3キャリアのLTEに用いられる2.1GHz帯の利用が国際的に認められている。「既存の携帯端末をそのままHAPSエリアで使えるのは大きな強み」と湧川氏は述べる。実行速度は約280Mbpsだが、ソフトウェアをアップデートすれば5Gにも対応でき、より高速な通信も可能だという。
HAPSモバイル 取締役 事業管理本部本部長 湧川隆次氏