Beyond 5Gの時代には、データレートの目標値が5Gの20Gbpsから100Gbps超へと一桁引き上げられる。この超高速・大容量な無線通信を実現するためのキーと目されているのが「テラヘルツ波」の活用だ。
テラヘルツ波とは一般的に、100GHz(0.1THz)から3THzの周波数帯域を指す。図表1に示すように、電波と光の中間に位置する。10年以上にわたってテラヘルツ波の研究開発を手掛けるNTT先端集積デバイス研究所で主幹研究員を務める野坂秀之氏によれば、「これまで人類が使いこなせなかった未開拓領域」だ。
図表1 テラヘルツ波とは
NTT先端集積デバイス研究所 光電子融合研究部 高速アナログ回路研究グループ
主幹研究員 グループリーダ 博士(工学) 野坂秀之氏
ここに今注目が集まる理由は、膨大な電波資源が手つかずのまま残されているためだ。広い帯域幅を使うほど通信速度は高速化する。
特に有望視されているのが300GHz帯(275-320GHz)である。275GHzまでの周波数はすでに様々な用途に割り当てられており、広い帯域幅を移動通信システム用に確保することは難しい。だが、「275GHzの上は誰も使っていない」(野坂氏)。この超広帯域を使いこなすことができれば、人類は100Gbpsを超える高速無線伝送の実現に近づける。
300GHz帯は意外と使える!?テラヘルツ波がこれまで未開拓だった最大の理由は「電波が飛ばない」ことだ。テラヘルツ波を飛ばすために必要なアンプなど、この領域で動作する超高速のアナログIC実現が困難だったことに加えて、ミリ波やマイクロ波に比べて空気による減衰が大きいことも一因である。
ただし、減衰特性が増すと言っても、帯域によって差はある。周波数が高くなるのに比例して単純に減衰率も上がると考えがちだが、実は必ずしもそうではないからだ。「300GHz帯の大気減衰は、1km当たり10dB以下と言われている。無線LAN(IEEE802.11ad)で使われている60GHz帯よりむしろ小さい。極端に使えないというわけではない」(野坂氏)。
であれば、45GHz幅という、従来の移動通信システムからすれば途方もなく広い帯域が使えるメリットを活かさない手はない。
メリットは他にもある。直進性が強いため、同じ空間内で複数の電波を使っても干渉や混信の心配が少ない。通信を傍受されるリスクも減る。通信用途以外にも、波長が短い特性を活かして人や物体を検知するセンシングに使える。「電波と光の性質を併せ持つのがテラヘルツ波。その特徴を活かして新価値を生み出せれば社会的意義は大きい」と野坂氏は話す。