いつどこにいても台風や地震などの自然災害と隣り合わせの「災害大国」日本。時代が変わり科学が発達しても、災害そのものを防ぐことは困難である以上、被害を最小限に抑える取り組みが必要だ。
電気や水道、ガスと並ぶライフラインの1つである通信も、災害に負けない強靭なインフラ作りが至上命題であることは言うまでもない。基地局が被災すると、電源が消失したり、伝送路に使われている光回線が断絶することがある。電源については予備のバッテリーを基地局に常備しており、光回線については代替策として衛星回線を用意するなど、携帯キャリア各社は対策を取っている。
ただ、東日本大震災のように想定を上回る大規模災害が起きれば、エリア内の基地局の大半が損壊してしまい、広範囲にあるいは長時間にわたりつながらなくなることが避けられない。そうした場合でも早期にエリアを復旧できるよう、各キャリアは様々な取り組みを行っているが、なかでも期待を集めているのが次世代技術の1つであるドローンの活用だ。
ドローンは災害時の基地局のほか、雪山の遭難者の捜索への活用が期待される
上空150mの高さに強み小型軽量で、しかも無人で飛行することができるドローンは、災害時に陸上や海上から携帯電話サービスの提供が困難になった場合、上空から電波を放射し一時的にエリアを構築する役割を担う。
KDDIは、ドローンに小型・軽量化した携帯電話基地局システムを搭載した「ドローン基地局」の実証実験を2017年12月に行った。
ドローン本体に小型・軽量化した携帯電話基地局システム(無線設備・モバイルコア設備)を搭載し、単体で携帯電話のエリアを構築、携帯電話サービスの一部機能を提供するというものだ。同システムの移動管理機能により、携帯電話から発信する電波を捉えることで対象エリア内の在圏状況も確認できるため、救助要請や捜索活動への活用も期待されるという。
NTTドコモは、ドローンに専用の小型中継局を搭載し、周辺で機能している基地局からの電波を上空で捉え、リピーターで中継して臨時のエリアを形成する「ドローン中継局」の実用化に取り組んでいる。
基地局が損壊して携帯電話サービスが中断した地域の救済策として移動基地局車があり、ドコモでは全国各地に配備している。ドローンは可搬性に優れており、被災地の地盤の影響を受けないので、土砂崩れなど移動基地局車では対応が難しい状況でも迅速な復旧を実現できる。また、「上空150mまで上げられるため基地局からの電波をキャッチしやすいうえ、効率良く広範囲に電波を吹けるメリットもある」とNTTドコモ 災害対策室 室長の小林和則氏は話す。
NTTドコモ 災害対策室 室長 小林和則氏
反面、課題もある。搭載できるバッテリー容量に制約があり、飛行時間は20分程度に限られてしまうのだ。長時間の連続飛行を可能とするため、ドコモは地上の電源と有線で接続して給電する方法を検討している。
このようにドローンは携帯電話ネットワークの災害対策として有効だが、現行の法制度では陸上無線として利用することは認められておらず、現状は実証実験にとどまっている。実用化には法制度の改正を待つ必要があり、時間がかかると見られる。
このためドコモでは当面、災害時の現地の状況確認としての用途を想定している。道路の寸断などで人が基地局に近付けない際の状況把握にドローンを活用していく考えだ。