――IoTやAIなどのテクノロジーが世の中を大きく変革しようとしていますが、社会は今後どうなっていくとお考えですか。
篠原 技術の進展が速いので予測は困難ですが、「こんな社会になって欲しい」という思いは持っています。人間として豊かな生活が送れる社会を作っていくこと――。それが我々の最終目標です。
そのためには1つ前の段階として、少子高齢化などの様々な社会的課題を解決しなければなりません。また、日本の国力をしっかり維持していくための産業競争力強化も重要ですが、IoTやAIはかなり貢献できると思っています。
農業を例にとると、IoTでデータを収集することで、ノウハウの形式知化が可能になります。もっと高く売れる農作物を、もっと効率的に作れるようになっていくでしょう。
世の中に存在する様々なバリアをなくしたいとも考えています。例えば、ハンディキャップをお持ちの方や高齢者の方が、いろいろな活動に参加できるようになる。あるいは、これはAIが中心になると思いますが、訪日外国人や外国人労働者の方の言語や習慣に関するバリアを低くする。
世の中では「AIと人間、どっちが優れているか」といった話題への関心が高いようですが、我々はあまり興味がありません。人間の生活をもっと豊かにしていくのが、AIをはじめとするICTだと捉えているからです。
しかも、技術に詳しい人だけが恩恵にあずかるのではない。NTTは「アンコンシャス」をキーワードの1つにしていますが、誰もがあまり意識することなく、上手に使えるようにしていく必要があります。
昔なら「NTTの本業ではない」――そうしたビジョンの下、様々な研究開発を行っていますが、その成果を用いたサービスを提供するのは、NTTグループだけではありませんね。NTTは、「ミドルB」と呼ぶサービス提供者の“触媒”として、新しい価値の創造をサポートするB2B2Xモデルへの転換を図っています。
篠原 昔は“電話”の会社でしたから、人と人とをつなげることを目標としていました。その目標の達成に向けて、例えばテレビ電話で使われる映像符号化の研究開発で「高品質と低ビットレート」を目指した研究があったとしましょう。昔は全く新しい技術がどこかで開発されたとしても、「NTTの本業ではない」と棚に乗せてしまったり、途中でやめてしまうことが多くありました。
ところがB2B2Xとなると、できた技術はNTTのみならず、通信業界とは関係ない「ミドルB」の方々にご提供することになります。今まで自ら設定していた目標が、「ミドルB」の方々にとって価値ある技術に「目標が変更」されるわけです。それに加え、研究開発の適用先はずいぶんと広がりました。最近はスポーツ脳科学などにも取り組んでいますが、我々の可能性を広げるため、さらに適用先を広げていきたいと思っています。
――B2B2Xで、R&D戦略も大きく変わったわけですね。
篠原 「コ・イノベーション」と言っていますが、いろいろな産業界の方々と一緒に研究開発に取り組み、新しい価値を作っていこうとマインドが変化したことは大きなポイントです。結局、各業界のことをよく知っているのは、それぞれの業界の方々。我々だけで研究開発をして産業界の新しい価値を作ることは無理なのです。