IoT向けの通信機器のスペック表を見ると、変調方式の欄に「FSK」などと並んで「LoRa」と記載されていることがある。実はLoRaとは変調方式の1つであり、LoRaWANの専売特許ではない。変調方式はLoRaだが、LoRaWANとは異なる仕様を用いた「独自LoRa」もある。
独自LoRaの研究開発に3年ほど前から取り組んできたのは、ネットワーク分野を中心としたICTベンダーのエヌエスティ・グローバリスト(NSTG)だ。NSTGのLoRaは、920MHz帯でマルチホップできる独自プロトコルで、すでに商用展開している。
LoRaWANのネットワーク提供は始まったものの、国内ではまだ、実際にIoTサービスで使うための検証段階の案件が多い。しかし、NSTGの独自LoRaは、早くも実環境で利用する事例がいくつも出ている。
エヌエスティ・グローバリストの独自LoRa対応の「SpreadRouter-MW」。センサーは、パルスセンサー、デジタルセンサー、アナログセンサー、電流値測CTセンサー、RS232C/RS485などに対応 |
1ホップ10kmで最大4ホップ「LoRa方式は、距離は飛ぶが速度が遅い。一方、FSK方式は、速度は出るが距離が短い。1ホップの通信距離が見通し1kmと言われているようなマルチホップ無線ネットワークの場合、大体FSK方式を採用しているが、LoRa方式を採用した当社のネットワークなら、1ホップ見通し10kmは対応できる」。こうアピールするのは、NSTG通信機器部・部長の坂本一輝氏だ。1ホップ当たりの距離がFSKより長いため、少ない台数で広いエリアをカバーできる。
独自LoRaに対応しているNSTGの「SpreadRouter-MW」は、各種センサーを接続可能。センサーを取り付ければエンドデバイスとして機能するほか、マルチホップの中継器の役割も担う。
今後ホップ数を増やす計画もあるというが、現在は4ホップまで対応。実際の現場における1ホップの通信距離は、当然のことながら建物や地形などの外部環境に左右されるが、見通しが良ければ1台の独自LoRaのゲートウェイを起点に、40km先までカバーできるイメージだ(図表)。
図表 マルチホップするNSTGの独自LoRa
マルチホップに対応したNSTGの独自LoRaには、LoRaWANのようなオープンな相互接続性はない。だが、プライベートなネットワークであれば、相互接続性は特に重要ではない。何よりLoRaだけでカバーできる距離が4倍になるのは魅力であり、様々なIoTサービスでの本番展開が進んでいるという。具体的には、製造現場での機器設備の稼働監視・故障予知、野生鳥獣の捕獲検知、ため池の水位監視、火山断層のズレ検知などだ。