――この3月に鳩山邦夫総務相の私的懇談会「ICTビジョン懇談会」で、「デジタル日本創生プロジェクト(ICT鳩山プラン)」の骨子がまとまりました。これはどのような内容なのですか。
桜井 ICTビジョン懇談会の緊急提言「ICTニューディール」などをふまえ、これから3年間に集中的に実施すべき施策となるものをまとめています。
「100年に一度」といわれる経済危機の中で、ICT分野を新たな成長戦略の柱とし、ICT関連の設備投資を促進することで、今後3年間で数兆円規模の市場創出と30~40万人の雇用創出を目指しています。
具体的には、デジタル新産業の創出、霞が関クラウドの構築、ユビキタスタウン構想の推進などの9項目からなります。なかでも光ファイバーを中心とするブロードバンドの整備やモバイル環境における情報インフラの整備が経済対策としては大きな意味を持つと見ています。
海外でも米国のオバマ大統領が経済政策の柱の1つとしてブロードバンド整備を掲げていますし、フランスなど欧州各国もブロードバンド整備に力を入れています。
――総務省としては久しぶりの大型ビジョンになりますね。
桜井 6月を目途に2015年頃までを視野に入れた新たなビジョンを策定する予定ですが、ICT分野の包括的なビジョンを示すのは5年ぶりです。今回はインフラだけでなく、その上でコンテンツなどいろいろな情報通信産業サービスが花を咲かせるという内容になるだろうと考えています。
競争政策もNGNに移行
――現在、日本の通信市場が抱える課題にはどのようなことがありますか。
桜井 第1に、レガシーな電話のネットワークからオールIPの次世代ネットワーク(NGN)への移行が進展しており、これまで電話網を中心として取り組んできた競争政策をNGNに移行する過程あるいは移行後をにらみ、どう変えていくかという問題があります。
また、モバイル化が急速に進展しています。携帯電話が3.9GのLTEあるいは4Gとなり高速化が進むと、有線系ブロードバンドと遜色のないスピードを持ったシステムへと高度化します。日本がこの高度化をどのようにリードしていくかということとともに、モバイル化が国内市場の競争状況にどのような影響を与えるかということも非常に大きな課題です。
――固定電話からNGNに移行する中で、従来の通信行政も変革を迫られており、今回の接続ルールの見直しで包括的に変わっていくのではありませんか。
桜井 そうですね。NGNについてはネットワークを4つの機能にアンバンドルするという内容の接続ルールを昨年から今年3月にかけて整備しました。これで開放的なNGNにするための制度的な取っ掛かりができたと思っています。その上で現在、包括的な見直しに着手したところです。
――公開ヒアリングなどでは白熱した議論が展開されています。接続ルールの見直しはかなり大きな問題になっているように見えます。
桜井 通信事業者の立場によって接続問題に関する主張は大きく異なり、まるでオセロゲームのようです。我々としては利用者視点に立って、この問題に冷静に取り組んでいく必要があると考えています。
もともと今まで積み上げてきた議論やルールもあるので、その上に現状に合わせてどのように変えていくべきかを付け加えていきます。
――移動体分野では、携帯電話市場の飽和が近づいています。行政サイドの取り組みや今後の課題についてお聞かせください。
桜井 携帯電話が広く国民に普及し、これまでのような急激な増加はなかなか見込めなくなっています。スマートフォンや2台目需要、M2Mモジュールなど新しい分野を開拓していかなければなりません。
我々としては新分野の開拓が可能になるような技術基準を作ったり、周波数を用意するなど、制度的な整備をしなければ次の発展はないと考えています。
また、WiMAXや次世代PHSでは、いろいろな企業が通信サービスを提供できるようにMVNOの受け入れ計画の着実な実施を義務付けています。
移動体の世界でも固定と同じように、水平的な分業の仕組みを作ってきました。それが今後どう展開されるか注目しています。
このように新分野を開拓したりMVNOが活発に参入することで競争力が生まれ、利用者や社会により良いサービスを提供できるようになるだろうと思います。