ケーブル配線が困難な場所に多数のセンサーを設置してデータを収集する「ワイヤレスセンサーネットワーク」を活用しようとする取り組みが、さまざまな分野で広がっている。
このシステムの構築と運用を確実に行うには不可欠な要件が2つある。安定した通信が行える無線ネットワークの信頼性の高さと、電池で長期間運用できる省電力性だ。
この2つを高いレベルで両立する独自技術「SmartMesh」をセンサー機器、通信機器メーカー等に提供しているのが、アナログICメーカーであるリニアテクノロジー傘下のダスト・ネットワークスだ。
リニアテクノロジーでダスト・エバンジェリストを務める小林純一氏(左)と、DUST&JJS の水谷章成氏 |
自己修復するセンサーネット
SmartMeshの第1の特徴は、有線接続に匹敵する99.999%という接続信頼性の高さにある。その秘訣が、メッシュ型トポロジーの採用と、周波数ホッピングである(図表1)。
図表1 信頼性を高める仕組み |
メッシュ構造にすることで、ある区間に障害が起こっても迂回してデータを届けられる冗長経路が確保できる。さらに、各ノード間の通信においても、他の無線との干渉や反射波による自己干渉が発生した場合には、2.4GHz帯の15チャネルを用いて異なる周波数で送信する。例えば、ch1で通信できないときにch5、ch11というように異なるチャネルを用いて通信をやり直す。
リニアテクノロジーでダスト・エバンジェリストを務める小林純一氏は「空間的(メッシュ型)にも周波数的にも冗長性を持つため、データが届く可能性が格段に高くなる」と話す。
第2の特徴である省電力性は、各ノードが高精度な時間同期を行ってデータを送受信する仕組みによって実現している。各ノードが正確な時刻情報を持ち、スケジュールに従って通信を行うタイミングで起動し、通信が終わればすぐに休止状態になる。送信側が送信している時間だけ受信側が動作すればよいので、動作時間を極力短くできるのだ。20秒間隔で通信を行う場合で、ノード当たりの消費電流は平均しておよそ数十μAで済む。
メッシュ構造を採用する無線技術は他にもあるが、周波数ホッピングを組み合わせて信頼性を高め、さらに電力消費を極力抑える仕組みによって、それらと差別化している。常時受信が必要なメッシュと比べて消費電力は10分の1に抑えられるという。
こうした仕組みを実現するためSmartMeshでは、1台の「マネージャー」と複数のノードでネットワークを構成する(図表2)。マネージャーと各ノードが時刻情報を共有し、マネージャーは1つのデータ送信に対して、送信先ノードと周波数、時間の異なる複数回のタイムスロットを割り当てる。
図表2 SmartMesh時間同期とメッシュ構成 |
ノードは近隣ノードとの電波の伝搬状況を常にマネージャーに報告。周辺に新たな建物や設備ができて伝搬状況が変化した場合には、マネージャーが新たなメッシュ構成を構築して各ノードに配布する。つまり、自己修復能力も備えているのだ。
通常、大規模なセンサーネットのノード群とその接続状況を把握・管理することは容易ではないが、SmartMeshはマネージャーが司令塔役を果たす構造上、管理もしやすい。
運用管理者は各ノード間の電波強度や通信成功率といった接続状況をPC画面等で確認し、弱い箇所を見つけたら障害が発生する前に対処することも可能だ。「自動修復も可能な管理されたセンサーネットができることも、他の通信技術にないSmartMeshの特徴」と話すのは、DUST&JJSの水谷章成氏。これも、一度設置したら長期間運用し続けるセンサーネットにとって重要な機能だ。