講演の冒頭で北氏は、ユニファイドコミュニケーション(UC)の定義を示すために米ガートナーのレポートを紹介した。2006年版のレポートでは「reduce “human latency”」がUCの目的であるとされている。つまり、人々が業務を行うために出張したり、事業所を移動したりするために費やされる移動時間などをなるべく短くし、本来やるべき仕事に集中させるためのツールがUCであった。
だが、2013年のレポートでは「enhanced business processes」がUCの目的であるとうたわれている。仕事を進めるプロセスに着目し、ここを改善するための道具としてUCを使おうというわけだ。
日本アイ・ビー・エム ソフトウエア事業 IBM Collaboration Solutions事業部 ICP コンサルティングITS 北好雄氏 |
では、なぜUCの目的は変わったのか――。「IT環境の変化が最も大きな要因だ」と北氏は説明する。
その裏付けとして北氏は、まずインプレスR&Dが毎年発行する『インターネット白書』の17年分の表紙を取り上げて解説した。1996年版の同白書の表紙は、タイトル通りインターネットが主役になっているが、最近の表紙にはスマートフォンやSNSなどが踊っている。
インターネット白書の表紙の歴史 |
また、同白書が2005年から毎年掲載している「10大キーワード」においても、最近のトレンドとして「クラウド」「ソーシャル」「モバイル」に関する事項が数多く挙げられていることに注目。「特にここ3~4年は、この3つのキーワードが一緒くたになってきている」と指摘する。
次に総務省の調査資料から、2012年の世界のインターネット普及率が35.4%に達していることを挙げ、「後進国では水道などのライフラインよりもモバイルネットワークの普及率の方が高い。全世界でモバイル端末を1人1台手にする時代に突入した」と北氏は強調する。
プライベートとビジネスでのコミュニケーションに大きな違い
モバイルインフラの普及によって人々のコミュニケーションの取り方も変わってきた。「総務省の『平成26年版 情報通信白書』を見て驚いたのは、チャットの利用がとても増えていること。LINEなどのソーシャルアプリのチャット機能を利用してコミュニケーションを取っている人が急増している」
スマートフォン購入後のサービス利用頻度の変化に関する調査結果(総務省『平成26年版 情報通信白書』)。赤い棒グラフが「増えた」、青が「減った」を示しており、ソーシャルアプリのチャット機能を利用してコミュニケーションを取っている人が急増していることがわかる |
他方、日本経営協会発行の『ビジネス・コミュニケーション白書 2012』では、社員間のコミュニケーションが取られる場として、会議や執務スペース、酒席などが上位に挙がり、フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションが多いことがわかる。
また、同白書では社内コミュニケーションに活用する情報ツールについても調査している。それによると、最も多いのはPCで、次いで回覧文書、グループウェア、社内掲示板の順になっている。「これらはコミュニケーションというよりも、情報共有のためのツール。日本企業は情報共有をベースとして、フェイス・トゥ・フェイスで仕事を進めるのが一般的なのだろう」
プライベートとビジネスではコミュニケーションの取り方に大きな違いが存在する |
プライベートではソーシャルアプリを使ってフェイス・トゥ・フェイス以外のコミュニケーションを楽しむ一方、ビジネスではメールや書類、掲示板などを使ってフェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションを行い、“飲みニケーション”でお互いに打ち解けていく。「つまり、プライベートとビジネスではコミュニケーションの取り方に大きな違いが存在する」のである。