生成AIが拓く“次”のIoT 「見える化」する道具から、自ら知らせるエージェントへ

IoTによる業務改善は、データを集めて可視化するだけでは完結しない。MODEはIoTプラットフォーム「BizStack」に生成AIを組み込み、IoTを現場の判断を支えるエージェントへ進化させようとしている。

「昨日の現場の気温は」「先週の映像を見せて」──。シリコンバレー発のスタートアップ・MODEが2023年に試作した生成AI活用のチャット型IoTアシスタントは、画面を何度もクリックせずに必要な情報へたどり着ける。顧客の反応は上々だったが、実際にはほとんど現場では使われなかったという。「忙しい現場で、情報を得るために質問を打ち込む仕組みは定着しない」。創業者でCEOの上田学氏はそう振り返る。

MODE CEO 兼 共同創業者 上田学氏

MODE CEO 兼 共同創業者 上田学氏

この失敗を起点に、MODEは生成AIの使い方を組み替えた。IoTは生成AIによってどう変わるのか。同社の答えは、「聞けば答えるAI」ではなく、「自ら知らせるAI」だった。

Google、Twitter(現X)、ヤフーでエンジニアを務めた上田氏は、2014年にMODEを創業し、IoTプラットフォーム「BizStack」を開発・提供してきた。2022年末のChatGPT登場を目の当たりにし、「これだけの知性があれば、現場で発生する定型作業を任せられる」と確信。すぐにBizStackへ生成AIを組み込む開発チームを立ち上げた。その最初の成果が、冒頭のチャット型アシスタントである。

チャット型のつまづきを契機にMODEは、能動的なエージェント型への転換に取り組んだ。AIが裏側で現場データを監視し、人では気づきにくい異常の兆候や定期レポートを、適切なタイミングで届ける(図表1)。作業者は情報を探しに行くのではなく、AIが差し出した変化を確認すればよい。アラート発生後に駆けつける後追いの対応も減らせる。

図表1 BizStack Assistantの動作イメージ(兆候の通知)

図表1 BizStack Assistantの動作イメージ(兆候の通知)

とはいえ、生成AIを組み込んでも、すぐに現場の文脈を理解できるわけではない。業務に即した通知を実現するには、AIがデータの意味を理解するための土台が要る。MODEが短期間で能動型AIへ舵を切れた理由は、生成AIが登場する前から築いてきた設計思想にあった。

「現場起点」のIoT設計

上田氏は当初から、IoTが技術ドリブンに陥りやすいことを問題視していた。「測れるので測ってみた、という発想では現場の困りごと解決につながらない」。そこでBizStackは、機器ではなく現場起点でデータを整理することを設計の核心に据えた。

BizStackのこの発想を象徴するのが、顧客の要望から生まれた「雨の日のためのダッシュボード」だ。雨量センサー、排水ポンプの稼働状況、漏水センサー、監視カメラ、さらには天気予報まで、メーカーの違いをまたいで1画面に集約。同じ種類のデータをただ並べるのではなく、「雨の日に現場が判断するための情報」を集めた。

もう1つの軸が、「測る機器」ではなく「測られる対象」からデータを捉えることだ。営業車両のアルコールセンサーで言えば、測っているのは車両ではなく、運転者の酒気帯び状態である。機器単位で記録すると、日々替わる運転者のデータが同じセンサーの記録に混在してしまう。ユーザーが知りたいのは、「どの機械で測ったか」ではなく、「誰が、どこで、どういう状態だったか」だ。

これを支えるのがBizStackの特徴の1つである「エンティティ」という概念である。人・場所・設備といった測られる対象のことで、データ整理の軸となる(図表2)。例えば「東入口」というエンティティにカメラAとB、センサーCを紐づけ、センサーCが異常値を検知したときに、「東入口の状況」として映像も含めて直感的に確認できるようになる。

図表2 エンティティのイメージ

図表2 エンティティのイメージ

上田氏は「エンティティはAIのために作ったわけではないが、結果的にAI活用の基盤になった」と話す。AIはエンティティにより、どの場所・設備・人に関する変化なのかを読み取り、能動的に通知することができる。

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