<連載>6G時代の新・業界地図6Gインフラ投資の経済学 環境変化を踏まえたシナリオ作りを

6Gのインフラ投資には、5G投資の“失敗”を繰り返さないための戦略が求められる。識者は、通信業界は外部環境の変化を踏まえたうえで、異分野と連携して投資を回収することが必要だと説く。

6Gの商用化は2030年前後とされ、標準化や技術開発が進む。設備投資はまだ具体化していないものの、通信事業者にとって本質的に問われるのは「6Gで何ができるか」ではなく、「何に投資し、どこで回収するか」である。

大きく変わった前提条件

この問いの背景には、5G投資への反省がある。5Gでは、高速大容量・低遅延・MEC・ネットワークスライシングなどを前提に、産業DXやエンタープライズ向けユースケースの拡大が期待された。しかし通信料収入は大きく伸びず、法人向けの新たな収益モデルも十分には確立していない。アクセンチュア ビジネスコンサルティング本部 通信・メディア プラクティス日本統括の堀口雄哉氏は、日本の通信事業者による5Gインフラ投資を「3兆円規模」と見積もり、その回収・償却はなお途上にあると指摘する。

アクセンチュア ビジネスコンサルティング本部 通信・メディア プラクティス日本統括 堀口雄哉氏

アクセンチュア ビジネスコンサルティング本部 通信・メディア プラクティス日本統括 堀口雄哉氏

5G投資の反省を6Gにどう活かすか。「6G投資はROI(投資対効果)の見極めが要点となる。技術スペックやユースケースを語るより前に、5G当時からの前提条件の変化を踏まえる必要がある」(堀口氏)

その変化として堀口氏は、生成AIの普及、電力・エネルギー制約の深刻化、半導体/GPU供給網の地政学的変化、安全保障リスク、データ主権/運用主権、そしてNTNの商用化という6つを挙げる(図表1)。5Gが商用化された2020年ごろには顕在化していなかった条件であり、これらを踏まえてどのようなゲームチェンジを図るかが、今後の投資判断と回収シナリオを左右する。

図表1 6G インフラ投資を左右する前提条件の変化図表1 6G インフラ投資を左右する前提条件の変化

投資対象はどう変わる

この前提条件の変化を受けて、投資対象自体が変わりつつある。5G時代の設備投資は、基本的にモバイルインフラの拡張論理で動いていた。エリアを広げ、容量を増やせば、いずれ使われるという前提である。だが6Gに向けた投資は、その論理が通用しない領域に踏み込みつつある。

最も象徴的なのが、計算基盤との融合だ。AIをネットワーク運用に活用する「AI for Network」はすでに実装段階にあるが、6Gに向けては「Network for AI」、すなわちAIの利用を支えるインフラとしての通信網という発想が強まる。情報通信総合研究所(ICR)ビジネス・法制度研究部 部長 主席研究員の岸田重行氏が「通信インフラがAIインフラになることは大いにあり得る」と話すように、投資対象は無線アクセス網にとどまらず、エッジコンピューティング、AIデータセンター、GPU/計算資源、APN、NTN/HAPSへと広がっている(図表2)。これは投資先が増えたという“量”の話ではない。接続性の提供から計算基盤の保有へ——通信事業者のビジネスモデルの性格そのものが、変わろうとしているのだ。

情報通信総合研究所 (ICR) ビジネス・法制度研究部 部長 主席研究員 岸田重行氏

情報通信総合研究所(ICR) ビジネス・法制度研究部 部長 主席研究員 岸田重行氏

図表2 6G 時代に向けた投資対象の変化図表2 6G 時代に向けた投資対象の変化

投資対象の“質”が変わっていくわけだが、こうした投資は完全に新しいものとして始まるわけではない。5G SAやスライシング、5G Advancedへの投資は、6G時代の収益基盤にもつながる。一方で、断絶している領域もある。電力・エネルギー連携やNTNなどは、従来のモバイルインフラの延長線上にはない。通信の外側にある電力事業者や衛星事業者との共同投資が、選択肢ではなく前提条件になりつつあるからだ。

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