「トラフィック増加の流れにAIが加わり、トラフィックのパターンが変化する」。こう指摘するのはIDC Japanの草野賢一氏だ。

IDC Japan Infrastructure & Devices シニアリサーチディレクター 草野賢一氏
業務システムのクラウド/SaaS化に伴い、インターネットへ直接抜けるトラフィックが増加している。AI活用の拡大はこの流れをさらに加速させ、トラフィックの量だけでなく、その向きや性質にも変化をもたらしているというのだ。AIは推論やデータ連携のためにAPIや外部のクラウド基盤を頻繁に利用し、複数のサービスをまたいだ処理を行う。その結果、通信量とセッション数、やり取りの回数が増加し、通信先はより拡散する。
企業ネットワークには、こうした変化に対応した、特定の拠点を前提としない、クラウドやインターネットを起点とした設計が求められている。さらに草野氏は、「AI推論の利用がもっと拡大すれば、低遅延性などの観点から処理はエッジに展開される」と話し、基盤の分散化がより進むと予想する。
こうした傾向に、エージェント型AIの普及が拍車をかける。「2025年は『AIエージェント元年』とも言われたが、生成AIの進化の速さに比べると、互いに様々な情報を自律的にやりとりするエージェント型AIは企業で実用される段階には達していない」。ガートナージャパンの池田武史氏はこう指摘したうえで、今後実用化が進めば、ネットワークへの影響は大きくなると予想する。エージェント型AI同士の通信が増えれば、トラフィックは複雑化し増大するからだ。草野氏も「どの程度自律的に動くかなど、現時点では見通せない部分も多いが、いざ変化が顕在化したときにすぐ対応できるようにアンテナを高く張っておくことが重要だ」と呼びかける。

ガートナージャパン バイス プレジデント アナリスト 池田武史氏
中小企業もSD-WAN本格化
AI活用やクラウド前提の通信構造が定着するなか、WANもこうした変化を前提とした見直しが求められている。「どの回線を使うか」より「どう最適化し、どう運用するか」への転換だ。
「3~4年前からネットワーク更改時にSD-WANを導入する流れが定着してきた」と、ネットワンシステムズ(以下、ネットワン)の川畑勇貴氏は述べる。「パブリッククラウドを含め、あらゆる拠点をSD-WANでつなぐ構成がトレンドになっている」という(図表1)。
図表1 SD-WANの進化と普及段階


ネットワンシステムズ ビジネス開発本部 応用技術部 ネットワークチーム 川畑勇貴氏
SD-WAN導入にあたり、特定の接続先へ直接接続するローカルブレイクアウトのニーズは依然多いが、それ以上に管理・運用の簡素化への期待が大きい。SASEやLAN、Wi-Fiなどのダッシュボードを統合し、ネットワークとセキュリティを一括管理できるソリューションへの注目も高まっている。
また、「2025年中盤ごろから、WANに低軌道衛星を活用する相談が現れ始めた」と、ネットワンの渡部満幸氏は話す。異なる回線を組み合わせ、“切れないWAN”を実現したいというニーズが背景にある。

ネットワンシステムズ ビジネス開発本部 応用技術部 ネットワークチーム 渡部満幸氏
もっとも、衛星回線をWANの主回線として活用するケースは限定的だ。衛星回線の活用以前に、既存のWANをSD-WAN化したいと要望する中堅・中小企業が増加しており、財政的に余裕の少ない地方自治体や学校などでも検討が本格化しているという。
こうした組織は情報システム部門を持たないケースも少なくなく、マネージドSD-WANへのニーズが高い。「アプリケーションに応じて通信を最適化する機能が必須であり、現実的な選択肢としてはSD-WAN以外にない」(渡部氏)。IDC Japanの草野氏も「コストをかけてでもマネージドSD-WANを導入したほうがいい」と説く。
人手不足が深刻な中小規模の組織ほど、エージェント型AIへの期待は大きい。その恩恵を最大限に享受するためにも、SD-WANをベースに運用負荷を抑えながらネットワークを使いこなす必要性がますます高まっている。












