自然環境や機器のモニタリング等に活用されているM2M(Machine to Machine)通信は、ビッグデータビジネスの要素技術の1つだ。これを用いて農業ICTクラウドサービスを開始したのが、NECと農業機器メーカーのネポン。農産物を生産するハウス内の温度や湿度などのデータをセンサーで取得し、M2M通信用コントローラーを経由してクラウドデータセンターに送信するものだ。農家はスマートフォンでデータを参照して作物の品質確保と生産業務の効率化に役立てる。
図表 農業ICTクラウドサービスの概要 |
2012年7月にサービスを開始して以降、農家からオファーが殺到している。ネポン営業本部営業部情報通信グループ担当部長の太場次一氏は、「初期のロットとして通信用コントローラーを500台用意したが、それで間に合うか心配し始めている状況」と明かす。だが、農業ICTクラウドが順調な滑り出しを果たすまでの道のりは平坦なものではなかった。
「水先案内人がほしかった」
「農業に対してITがどのような貢献ができるのか、考えてみなさい」
NECの遠藤信博社長は就任前に、新事業推進本部シニアエキスパートの大畑毅氏にこう指示した。そこから、農産物の生育環境をキャッチするセンサーの開発など、農業を市場とする取り組みをスタートさせた。
大畑氏は「IT屋が不案内な市場にどう切り込んでいくのか、もう一つしっくり来なかった」と振り返る。一口に農業といっても市場は様々だ。作物を生産する場所には露地とハウスがあり生育環境は異なる。最近では植物工場も登場している。対象も野菜、花、果樹と多様だ。どこをターゲットにしたらいいのか、どんな企業と組んだらいいのか、定めることができなかった。
ネポン 営業本部営業部 情報通信グループ 担当部長 太場次一氏 | NEC 新事業推進本部 シニアエキスパート 大畑毅氏 |
光明をもたらしたのが、ネポンとの協業だ。きっかけは、NECの別部門がネポンに対して生産方式に関するコンサルティングを実施したこと。その担当部門からの紹介で、ネポンの太場氏と会った。
「不案内な市場に切り込むために水先案内人がほしかった」と語る大畑氏と同様に、ネポンの側も当時、農家を対象に考案したクラウドサービスを実現するためのパートナーを探していた。