「AIの能力が高まり、大きなデータを扱えるWi-Fi HaLowの強みがより発揮されてきている」。インターネットイニシアティブ(IIJ) ネットワークサービス事業本部 IoTビジネス事業部 営業部 副部長 兼 プロダクト企画課長の三宅伸明氏はそう語る。
IEEE 802.11ah、つまりWi-Fi HaLowは、920MHz帯のアンライセンスバンドを利用し、長距離かつ大容量通信を実現する無線規格だ。“Wi-Fi版LPWA”とも呼ばれ、日本国内においては2022年9月に商用化が開始。それから3年が経ち、適用分野の拡がりによって商用化のフェーズへ着実に移行している。
Wi-Fi HaLowの大きな特徴は、動画像の伝送も可能な数Mbps程度のスループットだ。通信距離は概ね1kmで、海外の実験では十数kmの伝送に成功したという報告もある。国際標準化されたオープンなIPベースの規格であり、一般的なWi-Fiのハード/ソフト資産を活かした開発が容易な点も長所だ(図表1)。
図表1 802.11ahシステム(Wi-Fi HaLow)の位置づけ

こうした特徴を生かし、商用化当初から監視カメラ映像の無線伝送用途で採用が進んできた。屋外や広域エリアにおける低消費電力・長距離の映像監視システムを比較的容易に構築でき、特に電源確保が難しい現場や配線工事の制約が大きい場所での導入が進んでいる。
また、AIとの組み合わせにより活用範囲がさらに広がっている。代表的な例が生産設備の振動データ送信である。生産機械に取り付けたセンサーが振動データを取得し、AIによる解析によって異常検知や予知保全を実現する。このような振動データは容量が比較的大きく、従来のLPWAでは送信が難しかったが、Wi-FiHaLowの通信特性によってカバーできるようになった。
アナログ計器をカメラで撮影してクラウドで解析することによる既存設備のスマート化や、サーモグラフィ画像の分析などにも応用が広がる。画像伝送が可能というWi-Fi HaLowの特性が、AIが得意とするマルチモーダル解析と組み合わされた好例である。
もちろん、AI関連以外での用途も増えている。その1つが広カバレッジを生かした事例だ。メガチップス ASSP事業部 営業部 シニアエンジニアの東郷大輔氏によると、あるスマート工場では約500台の機器を2台のWi-Fi HaLowアクセスポイント(AP)でカバーする構成を計画しているという。既存の2.4GHz帯Wi-Fiを置き換えることでAP数を大幅に削減でき、他の2.4GHz帯機器との干渉を避けて通信の安定性を高められる。
屋外の水処理プラントでは、Wi-Fi HaLowとブリッジ装置を組み合わせて広範囲のエリアを構築。カメラ映像の伝送に加え、デジタル日報システムの通信にも活用され、現場のDX推進に寄与している。
第一次産業に目を転じると、農機を自動運転するための位置補正データと映像情報の送信にWi-Fi HaLowの利用検討が進む。北海道の農地は広大で、通常のWi-Fiではカバーできないためだ。また、ロボットによる稲作のカメラ映像伝送や、林業分野では山林内で作業する従事者の連絡手段としての利用も見られる。
工場や農地といった広い敷地にプライベートネットワークを構築する手段としては、ローカル5Gが比較の対象になる。ローカル5Gは高速・低遅延かつ高セキュリティという利点を持つが、コストや運用負担が大きい。
「ローカル5Gがコスト面などから導入しづらい環境では、構築が容易なStarlinkとWi-Fi HaLowの組み合わせが実用的な選択肢になっている」と三宅氏。林業の事例でもStarlinkと組み合わせて利用しており、通信困難地域で用途を開拓している。













