
古河電気工業 執行役員 Lightera President & COO ホリー・ハルス氏
――古河電気工業の光ファイバー・ケーブル事業の運用体制を再編し、新ブランド「Lightera」として2025年4月に新体制がスタートしました。それまで日本、北米、南米に分かれていた事業体を統合した狙いについて教えてください。
ハルス Lighteraは、アジア太平洋地域の古河電工 光ファイバー・ケーブル部門、古河電工の南米子会社 Furukawa Electric LatAm古河電工ラテン(FEL)と、米国子会社OFSFitelを統合して正式に発足しました。
目的は、通信ネットワーク業界が激変期にある中で、市場ニーズに最適に対応するため、グローバルな協力・調整の能力を持つことです。設立間もない現時点では、グローバルコミュニケーションの円滑化、キャパシティの拡張、そしてグローバル市場への安定供給を実現するバックアップ体制の構築に注力しています。
Lighteraには、古河電工の製造能力や研究開発リソースを活かせる強みがあります。真のグローバルプレイヤーとして、新たなビジネスモデルを試す役割を担い、グループ内でも非常に重要な使命を持っていると考えています。
古河電工の従来事業は日本が主導・管理してきましたが、Lighteraの本社は米国にあり、CEOはブラジル在住です。Lighteraは、従来と異なるビジネスモデルによるグローバル成長の可能性を検証するパイロットプロジェクトと位置づけられています。
AI-DCが生み出す新たなニーズ
――ターゲットとする市場はどこですか。
ハルス 光ファイバー市場の成長を牽引しているのは、生成AIとデータセンター(DC)のグローバルな拡大です。この需要と技術進化は、他の市場にも影響を及ぼしています。
通信ネットワーク市場では、大陸間をつなぐ海底光ファイバーケーブルの需要が急増し、スループットとキャパシティを増大させるマルチコア光ファイバー(MCF)などの新技術が登場する機会を生み出しています。
生成AIの影響範囲は広く、その能力を幅広い分野で活用するために、将来的にはスマートグリッドやスマートシティなどにおいても、より高度なネットワークが必要とされるでしょう。また、我々は医療、航空宇宙、防衛産業といった分野にも、その特殊なニーズに応えるべく参入しています。
私は製造技術分野で30年以上の経験がありますが、急速に変化する環境で成功するためには、適応力、イノベーション、管理の徹底、そして顧客中心のアプローチが不可欠だと考えています。Lighteraの強みはまさにそこにあります。高度な光技術と高精度な製造能力、変化に対応できる製造ノウハウを組み合わせることで、市場ニーズの変化に迅速に対応し、将来のインフラで求められる技術を予見して事前に研究開発を行うことが重要です。
――例えば、どのような技術の研究開発に注力しているのですか。
ハルス 伝送容量を増大させなければならない一方で、光ファイバーの敷設スペースは限られてきています。相反するこの2つの要件を満たすため、1本のケーブルに収容できるファイバー芯数を増やす高密度技術が必要となります(下画像)。

ローラブルリボンを収納した外径29mmの6912心光ファイバーケーブル

ローラブルリボンは、ケーブル内により多くの光ファイバー芯線を収納するために開発された。変形が容易で、ケーブル内部に高密度に収納することで超多心構造を実現する
この課題に対し、当社独自のローラブルリボン(間欠接着型テープ心線)型ケーブルを採用することで高密度化を実現しており、大容量のケーブルを小径ダクトへ敷設することを可能にしました。この技術は日本で開発され、グローバル市場で広く使われる基本的な技術となりました。
そして、AI需要の急伸で新たに生じたニーズが、DCインフラ構築の迅速化と通信の低遅延化です。
迅速なDCインフラ構築には、高密度化をはじめとした多くの技術が貢献します。最大24本の光ファイバーを収容できる小型コネクターは、スペースと作業時間を節約します。予めコネクターを取り付けた状態で出荷するプリコンケーブルも、現場での処理・設置時間を大幅に短縮する新技術の1つです。
低遅延通信を実現する技術として我々が注力しているのは、空孔コア(ホローコア)ファイバー(HCF)です。光の通り道であるコアを空洞にすることで伝送遅延を短縮できます(図表)。
図表 光ファイバーの断面構造











