日本では2023年から5G SA(Stand Alone)への移行が本格化し、これからそのエリアが拡大していく段階にある。
だが、エリクソン・ジャパン CTOの鹿島毅氏によれば、「グローバルではすでに、(5G SAの目玉となる)ネットワークスライシングを有効に活用している通信事業者がいる」。MWC Barcelona 2024のエリクソンブースでは、その先進事例を、当該事業者の担当者が直接、来場者向けに説明しているという。これからネットワークスライシングを展開しようとしている通信事業者はまさに興味津々で、ブースでは熱い議論がかわされているそうだ。
ネットワークスライシングの活用で先行している事業者の1つが、シンガポールのSingtelだ。同社は2022年に、一般ユーザーに優先して通信帯域を確保する「プレミアムサービス」を提供。これが、ネットワークスライシングを活用した初の事例となった。
続く2023年には、警察・警備関係者向けに専用帯域を提供するネットワークスライシングを運用開始。今年は、さらにスライシングの種類・数を増やしていく計画という。
エリクソン・ジャパン CTOの鹿島毅氏。左は、Singtelの取り組みを説明するモニター
ソニー、トヨタが「ネットワークAPI」を活用
このネットワークスライシングを、モバイルアプリケーション側から簡便かつ有効に使えるようにする仕組みが「ネットワークAPI」だ。エリクソンブースでは、このネットワークAPIを活用する企業の取り組みも紹介している。ソニーとトヨタ自動車だ。
ネットワークAPIは、アプリ側からネットワークに対して必要とする性能・機能要件を伝えたり、その要件を満たすネットワーク機能やスライスを提供する役割を担う。ソニーは、これを映像撮影・制作に活用しようとしている。
カメラで撮影した映像を編集・制作局へ5Gを使って伝送して放送に使う際、周辺にいる他のユーザー/アプリケーションが上り方向の大容量通信を行うと帯域が逼迫して、ブロードキャスト用の映像が乱れる恐れがある。これを防ぐため、ソニーではネットワークAPIを使って、リモートプロダクション(中継現場とスタジオをネットワークで接続して番組を制作する)に必要な通信性能・機能を要求し、それを満たすスライスを使えるようにするソリューションを開発している。
鹿島氏によれば、スライシングを使った映像プロダクションはすでに商用で活用しているが、ネットワークAPIを活用することで、より柔軟なスライス運用が可能になるという。
エリクソンブース内でトヨタの「Connected Vehicle API」を紹介
トヨタは、自動運転や安全運転支援のためのクルマの制御や、車内のエンターテイメントサービスなど、多種多様なコネクテッドサービスに5Gを活用しようとしている。クラウドから各種サービスを提供する際、問題となるのが、サービスごとに必要な品質を担保すること。エンタメと安全運転支援では当然、求められる通信要件は異なるため、「メリハリを付けたネットワークの使い方が求められる」(トヨタ担当者)。
そこで、トヨタは「Connected Vehicle API」と呼ぶ、自動車業界で必要なネットワークAPIの仕様策定をエリクソンと共同で進めている。業界共通のAPIを定義することで、モビリティサービスにおける5G活用を推し進める。