通信業界ではこれまで“研究段階の技術”として扱われてきたマルチコア光ファイバー(MCF)への見方が、2023年秋に一気に変わった。
発端は、9月13日のGoogle Cloud blogの投稿だ。グーグルが2025年に運用開始する太平洋横断海底ケーブル「TPUケーブルシステム」の一部区間に、2コアファイバーを採用することを発表したのだ。
台湾とフィリピン、グアム、カリフォルニアを結ぶこのケーブルは、グーグルとNECが台湾の中華電信、フィリピンのInnove Communications、米AT&Tと共同で構築するものだ。
2コアを商用導入するのはもちろん世界初。そのインパクトは特大だ。「実際にニーズがあることを改めて市場が広く認知した」とNTTアクセスサービス研究所の中島和秀氏が語れば、KDDI総合研究所 光部門の吉兼昇氏も「(4コアでなく)2コアか、というのはあるものの、業界への影響は非常に大きい」と話す。MCFが実用フェーズに入ることで、光ファイバー通信は新時代へ突入する。
KDDI総合研究所 光部門 フォトニックネットワーク研究所 所長 吉兼昇氏
グーグル+日本で2コア始動
ここで注目されるのが日本の位置づけだ。「MCF技術は間違いなく先行している」と関係者は口を揃える。
光伝送技術はこれまで時分割多重(TDM)や波長分割多重(WDM)による大容量化が続いてきたが、その限界が見えてきたことで2010年代から空間分割多重(SDM:Space Division Multiplexing)の研究が盛り上がった。光ファイバー内に複数コアを入れるMCFや、1コア内に複数種類(経路・パターン)の光を伝搬させるマルチモード光ファイバーによって伝送容量を拡張する方式である。
これをリードしてきたのが日本だ。グーグルのTPU構築をNECが担当することも、その実力を示している。
また、光ファイバーメーカーの住友電気工業は、KDDI総合研究所やNECらとともに2022年時点で4コア光ファイバーを使った3000km級の光海底ケーブルシステムの実証に成功している。住友電工は先述のグーグルの発表とほぼ同時期に「太平洋横断海底光ケーブルへ適用可能な」極低損失の2コア光ファイバーの量産化を発表。10月から販売を開始した。