東京大学大学院医学系研究科、東京大学医学部附属病院、NTT東日本、日本電子、ニコン、ニコンソリューションズは、生命科学・医学研究分野のデジタルトランスフォーメーションを推進する連携協定を2023年12月21日に締結したと同日発表した。
バイオ研究の分野において、大規模データを活用した実験の重要性が増している。また、多様かつ先端的な研究には、遠隔での共同実験を円滑に行うことも求められる。こうした研究環境の構築と、その基盤となる要素技術やシステムの開発によって実現しようとする研究のデジタルトランスフォーメーションを、この連携では「リモートバイオDX」と呼び、多様かつ先端的なバイオ研究を推進する各機関が協力する体制を構築するという。
「リモートバイオDX」の概要と役割分担
リモートバイオDXが目指すのは、バイオ技術があらゆる産業において使用される「バイオエコノミー社会」の実現だ。ゲノム解読のコスト低下、革新的なゲノム編集技術の登場、バイオ研究とAI/ITなどのデジタル技術の融合により、健康・医療分野だけでなく、環境、エネルギー分野、素材・材料分野、食料分野等、あらゆる産業でバイオ技術が使用され、社会課題が解決される社会のことを指す。
日本でも「バイオ戦略2020」が策定され、2030年に世界最先端のバイオエコノミー社会を実現するための産官学一体となった取り組みが開始された。しかし、物理的な距離が離れていると、大容量データを柔軟に転送・共有することや、同じ機器・画像をリアルタイムに操作し共同実験を行うことに一定の課題が存在している。
これらの課題を解決するためには、場所にとらわれず、距離が離れていても円滑にコミュニケーションができる仕組みや、大容量データを高速かつセキュアに共有し、AI等も活用した先端的な研究がおこなわれる基盤の整備が必要だ。同連携協定ではこのような将来像を実現することを目指す。
具体的な取り組みは主に3点ある。1つめは、「遠隔での研究機器操作、データ取得と解析を実現するデジタルインフラの実現」だ。日本電子とニコンの先端的な顕微鏡、画像解析装置といった機器を、NTT東日本が提供するAPN IOWN1.0等の高品質で低遅延なネットワークで接続することで、遠隔からでも現地同等の操作性を目指す。実験データを高速かつセキュアにシェアできる仕組みも開発するとしている。なお、NTT東日本によればバイオ研究分野へのIOWNの活用は日本初となるという。
遠隔操作機器のイメージ(実際の機器とは異なる場合がある)
2つめは「遠隔での画像データ等の共有化による指導・対話・教育システムの実現」で、複数の専門家が1台の顕微鏡の画像を遠隔地でリアルタイムに見ながら議論したり、機器操作の知識を遠隔で指導できるシステムの実現に取り組む。
3つめは「大規模生命科学・医学データの安全性の高い保管・移動・解析を可能にするデジタルインフラの実現」。バイオ領域ではペタバイト級のデータを扱うことも多く、また経済安全保障の観点から、そのデータを国内で安全に運用・管理できる仕組みが求められる。ブロックチェーン、AIサーバなどを活用することでこうしたインフラの構築を目指す。
2024年3月には、「“リモートバイオDX”に向けたキックオフシンポジウム(仮称)」が開催される予定だ。また、2024年度中には、世界最高レベルの顕微鏡等機器の遠隔操作、ならびにコミュニケーションのリアルタイム化に取り組み、遠隔地からでも同じ場所にいるかのように共同研究ができる世界「Remote World Collaboration」の実現に向けて取り組んでいくとのことだ。