2019年12月の制度開始とともに立ち上がったローカル5G市場。数々の実証実験を乗り越え、市場が本格的に拡大しようとしている。
矢野経済研究所の調査では、ローカル5Gソリューション市場は2020年度には2億円ほどに過ぎなかったが、2030年度には650億円まで成長する見込みだ(図表1)。
図表1 ローカル5Gソリューションの市場規模予測
ローカル5Gを活用して、企業は何を実現したいと期待しているのか。「現場の働き方変革だ」と分析するのはIDC Japanの小野陽子氏だ(図表2)。代表例が、ローカル5Gを用いた機械の自動操縦や遠隔制御などによる自動化、省人化である。製造業や建設、倉庫などの産業では現場の人手不足が深刻であり、DXによる生産性向上が急務となっている。
図表2 ユーザーが5Gで解決したい課題
工場や倉庫などの構内の無線ネットワークではWi-Fiも有力な選択肢となる。だが、「実証実験などを重ねる中で、Wi-Fiでは限界があるという声も出てきた。工場で使うならやはりローカル5Gだという認識も広がっているのではないか」と小野氏は見る。
IDC Japan コミュニケーションズ リサーチマネージャー 小野陽子氏
Wi-Fiは低価格で導入できる半面、誰でも利用可能な免許不要の周波数を使う。このため干渉が起こりやすく、通信の安定性・信頼性の点で不安がある。ミッションクリティカルなユースケースで使いにくい。「映像伝送では想像以上にジッター(ゆらぎ)が映像品質に影響する。カメラの台数が増えるほどジッターは増えるが、多数の映像を低ジッターで処理できるのがローカル5Gのいいところ」と富士通の上野知行氏は説明する。遅延時間の変化度合いを指すジッターは、同じ周波数内での干渉などが原因で大きくなりやすい。周波数利用に免許が必要なローカル5Gであれば干渉を避けてジッターを抑えやすい。
富士通 ネットワーク&セキュリティサービス事業本部 5G Vertical Service事業部 シニアディレクター 上野知行氏
(編集部注:本稿を掲載した月刊テレコミュニケーション2022年10月号にて、富士通 ネットワーク&セキュリティサービス事業本部 5G Vertical Service事業部 シニアディレクター 上野知行氏の顔写真が別の方の写真になっておりました。読者の皆様ならびに関係者の皆様にご迷惑をおかけいたしましたことを深くお詫びいたします)
低ジッターなだけではなく、大容量通信も安定的に行える。「8K対応カメラ1台で広範囲を撮影し、一部を切り出し拡大してAIで解析し、『人が倒れそうになっている』『建機に近付きすぎて危ない』といった検知も可能」と話すのは、シャープの日向崚輝氏だ。
シャープ 通信事業本部 パーソナル通信事業部 要素開発部 研究員 日向崚輝氏
ローカル5Gによる大容量・低遅延通信を用いてデジタル化を進めることで、現場の働き方を大きく変革していける可能性がある。
ただし、すべての条件がきれいに整ったわけではない。ローカル5Gによる変革は、これから紹介する4つの課題を解決することで、さらに加速することになる。
月額30万円でもまだ高い?
1つめは価格である。ローカル5G市場の拡大には「値段低下が絶対条件」と小野氏は指摘する。
ローカル5Gの価格は解禁当初の2019年とに比べると順調に低廉化してきている。例えばNTT東日本はマネージド型のローカル5Gサービス「ギガらく5G」を2022年5月に開始した。ローカル5Gの設備・機能一式を提供するサービスで、月額30万円台から利用できる。NTT東以外の大手ベンダーも、負けじと価格低下やサービスメニュー拡充などを打ち出している。「こうした大手ベンダーの価格低廉化の努力は評価したい。ただ、日本には中小企業が多く、規模の大きい工場も限られているため、より低廉化させなければ市場が広がらないという意識は、ベンダー側も持っているのではないか」と小野氏は言う。