「技術的にはすでに、ホワイトボックススイッチ(WBS)を選ばない理由はありません」。データセンターネットワークの動向について、このように話すのはAPRESIA Systemsの岸本貴之氏だ。
WBSとはソフトウェアを含まない、ハードウェア部分だけのスイッチ製品。一般的なスイッチは各ベンダーが両者を統合して提供しているが、WBSではOSを含むソフトウェアをユーザーが選択。自由にカスタマイズして利用できる。2010年代は機能面での限界もあったが、「いまや汎用LSI(大規模集積回路)を搭載したWBSは、データセンターのモダンアーキテクチャであるIP Closネットワークの最適解です」と岸本氏は解説する。
実際、WBSはデータセンター領域で採用が増加しており、調査会社のIDC Japanによれば、2020年~2025年の国内市場においてWBSの年間平均成長率は28.2%の見込みだ。
WBSの採用だけでは足りない? SONiCが注目を集める理由とは
データセンターでWBSの導入が加速している大きな理由がコストだ。WBSの採用を通して、サードパーティ製やオープンソース(OSS)まで含めて、ネットワークOS、スイッチ、光モジュールを柔軟に選択して組み合わせる「オープンネットワーキング」を実現することにより、大規模なネットワークであるほどコストを削減できるのだ(図表1)。
図表1 ホワイトボックススイッチとSONiC利用時のコスト削減イメージ
現在、多くのデータセンター事業者やネットワーク担当者を悩ませている半導体不足問題にもWBSは有効だ。「大手ネットワーク機器ベンダー製品を利用している事業者様においても、納期問題からその代替手段としての検討をされている事業者様もいます。WBSベンダーはLSIの確保量が桁違いに多く、比較的この問題に強いからです」(髙橋氏)。
ただ、WBSを採用しても実際のところオープンなOSの選択枠が充実しておらず、有力候補の「Cumulus Linux」も近年買収されたことから、OSのオープン化が危ぶまれている。「特定ベンダー製のOSを利用すると、結局は上位管理ツール(コントローラーなど)も揃える必要があり、結果的にロックインされてしまいます」と岸本氏は指摘する(図表1の中央の状態)。
そこで、ベンダーロックインからの脱却を果たすために期待が集まっているのが、OSSのネットワークOSである「SONiC(ソニック)」である。
SONiCはWBS用に作られたLinuxベースのネットワークOSであり、2014年にMicrosoftが中心となって開発。Azureはもちろんのこと、アリババなど多くのハイパースケーラーに採用されている。
特長は「SAI(Switch Abstraction Interface)」に対応していること。SAIはスイッチ用のASICの制御管理を抽象化するために標準化されたAPIであり、「ASICベンダーの差分を隠ぺいしてくれる機能で、ブロードコム、インテル、NVIDIAなどのASICを問わず制御できます」と岸本氏は解説する。SAIは2022年1月時点でASIC8社、106種類のスイッチをサポートしている。
SONiCは2022年4月、その開発がLinux Foundationのもとで推進されることが発表された。同団体は過去にKubernetesなどいくつものOSSを進化させ、エコシステムを拡大させてきた実績がある。「かなり大きな変化です。将来的にはさまざまなOSSとの連携が実現し、ユーザーの選択肢を大幅に広げるでしょう」と岸本氏は期待をこめる。