宇宙では今、衛星コンステレーションの構築や地球観測衛星の打ち上げが急増している。それに伴い、宇宙と地球間の通信にボトルネックが生じている。
原因は大きく2つある。1つは、最近新たに打ち上げられる衛星の多くが、低軌道衛星であることだ。高度400km~1000km以下と地球に近い距離を高速に飛ぶため、地上の1地点と通信できる時間は1周回90分当たり数分程度と非常に短い。そのため、1地点につき、1日1回観測する程度の頻度になっている。
もう1つは周波数の調整だ。人工衛星が電波を使って地上と無線通信するためには、事前に周波数利用の申請・調整が必要になるが、低軌道衛星の急増によってこれが長期化しており、現在は衛星1基につき24カ月以上かかっているという。
こうした宇宙通信の課題を光通信で解決しようとしているのが、2016年設立のスタートアップ、ワープスペースだ。
地上約2000km~2万kmの中軌道上に、3基の小型衛星を配置し、衛星間光通信ネットワークサービス「WarpHub InterSat」を構築する計画を進めている。中軌道は、低軌道よりも地球と離れているため1基あたりの可視範囲が広く、3基程度で地球のほぼ全域をカバーできるという。
ユーザーとなる衛星は、WarpHub InterSatを経由することで、地上と常時高速データ通信が可能になる。さらにデータを中継することで、自ら地上局と通信する必要もなくなるため、周波数調整の手続きも不要となる。
図表1 「WarpHub InterSat」実現の背景やビジョン
2つのビジネスモデルワープスペースは2つのビジネスモデルを考えている。
1つは宇宙空間における「通信キャリア」の立ち位置だ。人工衛星や宇宙探査機などの宇宙機を運用する、地球観測衛星事業者をはじめとする事業者に対して高速データ通信サービスを提供し、通信料を得るビジネスモデルとなる。
もう1つは公共機関向けの光通信インフラサービスの構築である。ワープスペースは2022年1月にJAXAから「月面活動に向けた測位・通信技術開発に関する検討」の検討業務を受託しているが、こうした業務もその一環と言えるという。
図表2 ワープスペースが考える2つのビジネスモデル
「宇宙空間におけるインフラの整備を、スタートアップに担ってもらおうという動きはアメリカ・ヨーロッパで強かったが、最近は日本でも強まってきている。JAXAから検討業務を受託したように、宇宙の通信キャリアとして、インフラの整備や運用自体をサービスとして公共機関に提供できる」とワープスペース 代表取締役CEOの常間地悟氏は説明する。
ワープスペース 代表取締役CEO 常間地悟氏
宇宙空間における光通信の研究開発に取り組む企業は複数いるものの、光通信のサービスを独自に提供しようとする企業は、海外を見ても少ない。ワープスペースと同様の事業を進める企業にアメリカのスペースリンク社があるが、常間地氏によればワープスペースとは設計のコンセプトがかなり違うという。
スペースリンク社の場合、中継衛星にも、ユーザーの衛星にも同じ通信機を搭載する。中継衛星用と同じ電力負荷、サイズ、重量の通信機を利用するため、搭載可能なユーザー衛星は当然大型のものに限定される。一方、ワープスペースは中継衛星側により高スペックの通信機を載せるが、ユーザー側の通信機は一般的な小型商用衛星に搭載可能なサイズにするという。
「スペースリンク社はアメリカの国防用などの衛星向け通信サービスを主眼に置いており、小型のユーザー衛星を意識する必要があまりない。また、ユーザー側も中継衛星側も同じ通信機というのはある意味シンプルで、そこはコンセプトの違いだ。宇宙産業のプレイヤーはまだ非常に少ないので、競争するというよりは一緒になって盛り上げていこうという雰囲気の方が強い」