社内システムと連携してノートPCで行っていた業務をiPadに置き換えようとする場合、既存端末・システムが業務に深く浸透している分、クリアすべき課題は多くなる。
iPadがいくら優れた端末であっても、ノートPCとはそもそもできることが異なる。また、業務システムとiPadの連携にはインフラ整備や開発に大きなコストがかかる。iPadが活躍できる業務シーンを見極めなければ、コストばかりかかって、却って業務効率を阻害する可能性さえある。
実は、iPadの導入事例が次々と発表される裏で、このような状況に陥っている企業も少なくない。
小さく始めて大きく育てる
iPad・iPhoneの導入支援サービスを9月から開始した日立コンサルティングのグローバルITサービス&ソリューション本部・中西栄子シニアマネージャーは、顧客企業の現状について次のように語る。
「iPadを入れてしまったが、コストに見合った効果を出す方策がわからない、どういった規約、セキュリティポリシーを作ればよいのか、といった問い合わせは非常に多い」
同社のサービスは、業務システムと連携させたiPad活用を支援することに主眼を置いている。こうした目的を持つ企業をターゲットに、ノートPCの役割を見直し、iPad・iPhoneで業務を効率化するための活用方法の策定からシステム構築、さらには端末・アプリの手配から運用サポートまで幅広いサービスメニューを揃えている(図表1)。顧客企業からのニーズに応じて設定したメニューも多いというから、企業の要望が実に多様であることがわかる。
図表1 「iPad/iPhone活用コンサルティングサービス」(日立コンサルティング)のメニュー |
京セラコミュニケーションシステム(KCCS)にも、iPad活用に関する相談・要望が相次いでいるという。常務取締役・ICT事業統括本部の松木憲一副統括本部長は、安易な導入は失敗の元と釘を指す。「顧客接点での活用のように目的がはっきりした場面では活きる」と認めつつも、「ノートPCの置き換えは一部に留まるだろう」と話す。
また、iPadから社内の自席PCを操作できるリモートデスクトップソリューション「持ち出しマイデスク for iPhone&iPad」を提供しているNECネッツエスアイ・SI&サービス事業本部ICTソリューション推進本部ソリューション開発グループの湯江明史グループマネージャーも「PCの役割をそのまま代替するのは無理がある」と指摘する。
「ワークスタイルをどう変えたいのかを明確にしてiPadの利用シーンを考えるべき。そうでないと、導入後にいくつも障壁が出てくる」
ならば、現時点で成果を挙げている企業にはどのような特徴があるのか。KCCS・ICT事業統括本部ネットワークサービス事業本部コミュニケーションサービス事業部の小澤浩一事業部長は次のように話す。
「目的を絞って立ち上げた企業は、導入効果も検証しやすい。明確に成果を位置付けられ、それをベースに、例えばメールやスケジューラも見られるようにしたりと、スムーズに活用領域を広げている」
用途を絞って小さく始め、効果を確かめながら活用領域を広げていく。これが、最も成功に近く、かつハードルも低いiPad導入シナリオと言っていいだろう。