近年、メタバースへの注目が高まっている。メタバースの定義はまだ明確には定まっていないが、大まかな意味ではアバターを操作して動き回ったりコミュニケーションが取れたりする仮想空間のサービスやプラットフォームを指す。VRやARと混同されがちだが、VR/ARはあくまでメタバースに入るための手段である。
メタバースは、米リンデンラボ社が運営する「セカンドライフ」などが登場したことで2000年代にも一度ブームが起こったが、次第に人気は衰退していった。そして2022年の今メタバースブームが再燃している背景には、デバイス、グラフィック、通信などあらゆる技術の大幅な進歩がある。
デバイスのコンピューティングパワーは大幅に向上し、PC並の処理能力を持つスマホも登場した。光ファイバー通信やWi-Fi、5Gなど有線も無線も高速大容量化、高精細なグラフィックが作れるようになり、GPUの性能やモニターの解像度も向上しているからだ。また、2021年にFacebookが社名を「メタ」に変更したことも、広く世間の注目を集めるきっかけになった。
メタ CEOのマーク・ザッカーバーグ氏は、モバイル関連展示会「MWC Barcelona 2022」において、メタバースの実現にはネットワークインフラの進化が必要になると話した。メタバースの発展・普及に、5G、6Gが大きな役割を果たすことは間違いない。
都市と連動するメタバースメタバースに適した通信ネットワークが求められるなか、通信事業者自身もメタバースに注力している。
KDDIは通信事業者としていち早くメタバース領域に着手した。2020年5月、渋谷区公認の配信プラットフォーム「バーチャル渋谷」をリリース。スマートフォン、PC、VRゴーグル対応のメタバースプラットフォームアプリ「cluster」から入ることができる。
単に渋谷の街をデジタル空間上に再現しているだけではなく、実際の渋谷と連動する「都市連動型メタバース」を志向していることが特徴だ。
「現在のメタバースの多くは、現実とは切り離された別の世界、空間として設計されることが多いが、KDDIは都市体験を拡張するというコンセプトから始まっているため、リアルの空間と連動することを重要視している。そこで都市連動型メタバースと呼んでいる」とKDDI 事業創造本部 ビジネス開発部の川本大功氏は説明する。
KDDI 事業創造本部 ビジネス開発部 川本大功氏
例えばバーチャル渋谷では、2021年に「バーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェス2021」を開催しており、この中で実際の渋谷と連携したイベントを実施している。1つは自分の姿をスキャンしてリアルなアバターが作れる「AVATARIUM」だ。
「バーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェス2021」のスクリーンショット(画像提供:KDDI)
都内4箇所に設置されたスキャナーで全身を撮影するか、アプリで顔写真をとれば自分自身がアバター化され、バーチャル渋谷内で使用できる。また、イベントの「公式スタッフ」アバターを一般から募集し、働いてもらう実証実験も「メタジョブ!」と連携して行われた。バーチャル渋谷のイベントスタッフとして来場者に操作方法やイベントの案内、写真撮影を行うというもので、海外や地方など場所を超えて働いたり、様々な事情で外出が難しい人も働くことができると好評だったという。
さらにKDDIは配信プラットフォーム構想「バーチャルシティ」を展開していく。渋谷にとどまらず様々な都市体験を拡張していく考えだ。
「僕らは、リアルと連動しながら非常にオープンな空間にしていくことを狙っている。まずはユーザー自身が色々なコンテンツを作ったり、情報発信ができるようにUGC(ユーザー生成コンテンツ)の機能を広げたい。また、実在の都市状況や事業者のサービスをリアルタイムに連携するためのAPI『リアルAPI』も順次企画し、提供していく」(同氏)