Beyond 5G/6G時代は「光無線」が重要な技術となる。これまでの無線通信は、電波を中心に進化してきた。5Gでは最大20Gbps(理論値)の通信が実現しようとしている。しかしこれが光を使えば、理論的には1Tbpsを超える大容量・低遅延の通信が可能になる。動画、VR、メタバースなどの大容量コンテンツが世界中で発展しつつあるなか、今後ますます大容量通信へのニーズが伸びていくことが予測され、光無線通信は欠かせない手段となる。
速さだけではない。光には電磁ノイズ耐性と不干渉性がある。光は電波よりも遥かに周波数が高いため、同じ空間を飛び交っていてもお互いに干渉することなく、輻輳や途切れが発生することがない。
また、電波より高セキュリティでもある。前出の電磁ノイズ耐性を持つことに加え、電波と違い周囲に拡散しないため傍受されにくい。量子暗号通信では光子の状態を見るために光ファイバーを利用しているが、今後、量子暗号通信を無線でもやろうとすれば光無線通信が必須となる。
さらに今逼迫している有限かつ希少な電波を使う必要がなく、電波法の規制がないため免許不要という使いやすさも光の優位性である。
図表1 電波・光と移動体通信システムの関係性
光無線ならではのユースケースこうしたメリットを活かした光ならではのアプリケーションも考えられている。例えば航空機や航空管制のデータリンクだ。
「電波は周りに電波をまき散らしているので傍受しやすいが、光は直線で飛ぶ。送信側の光を真っすぐ受信しないと通信できないため、傍受されることはない。そこで、例えばエアバス社は昨年あたりから、衛星と旅客機間のデータリンクを光無線通信にするための開発を進めている」とソフトバンク IT-OTイノベーション本部 サービス基盤統括部 サービス基盤 企画部の今井弘道氏は説明する。
ソフトバンク テクノロジーユニット IT-OTイノベーション本部
サービス基盤統括部 サービス基盤企画部 今井弘道氏
光無線通信を使うと、通信していること自体が検知されにくく、管制システムをハッキングされたりデータを傍受されるリスクを低減できる。軍事用ドローンの航空管制についても光が有用だとして研究が進められているという。
V2Xでの活躍も期待されている。高速で移動している車の制御には低遅延通信が必須だが、「5Gでも10msecほどの遅延がある。光無線通信ではさらに遅延時間が1~2桁低い。ここは今、各社がミリ波を使って同じような発想で研究を進めているが、さらに突き詰めていくと光を使うことになると考えている」(今井氏)
水中には電波が届かないが、光なら水中でも通信が可能だ。水中向けには音響を使った無線通信もあるものの、海洋生物への影響や、傍受性の高さの懸念があるほか、通信速度も現状では数kbps。そこで光によるネットワークを構築すべく様々な企業・組織が研究開発を進めている。
今は有線でしか接続できない水中ドローンも、無線を使えるようになれば地上や空のドローン同様に活動範囲が広がり、遠隔制御や自律制御ができるようになる。産業用途としては洋上風力発電設備や海底パイプライン、海底ケーブルなどインフラのメンテナンスや船底、養殖網の検査、海中でのIoTセンサーの利用など様々な検討がされている。
図表2 光ならではの先進的なアプリケーション
光通信が普及していない理由しかし、なぜこれまで光通信は普及していなかったのか。
「光は直進性が高過ぎる。送信側から出る細いビームを受信するためには、うまく位置合わせをしないと通信できない。基本的には完全に固定設置し、測量レベルの位置合わせをしてやるという使い方が現状の使い方。今まで、なぜそんなメリットだらけの光無線通信が一部でしか使われていなかったというと、移動体で通信しようとすると、そんな精密な位置合わせは無理だからだ。これをドローンや水中ロボットで使おうと思うと、動く相手に対してうまくビームを合わせて、動いている側のロボット側からもうまく自分のビームを相手側に送り返してあげなければいけない」(今井氏)
図表3 通信機器のずれによる通信への影響のイメージ図
この課題を解決し、光無線を社会実装していくためには、相手をトラッキングして追いかける技術が必要となる。しかも、精密かつ高速に、そして様々な状況で使える汎用的な技術でなければならない。そこでソフトバンクは「トラッキング光無線通信技術」の研究開発を2019年から続けている。