無線LAN用の新たな周波数帯の解禁により、Wi-Fiは従来を大きく超える性能を手に入れる。総務省は今年4月、6GHz帯を対応周波数に加えたWi-Fi 6E向けに、500MHz幅の周波数を開放する方針を固めた。2.4GHz/5GHz帯のみに対応する従来のWi-Fi 6もIoT端末の多数同時接続や、高速な実効速度などを実現してきたが、Wi-Fi 6Eによる広帯域化でこれらの特長が大幅に強化される。「オフィスLANの有線からの置き換えや、工場や病院などの現場でのWi-Fi導入が大きく加速することになるでしょう。これまで以上にミッションクリティカルなシステムを無線化できるようになります」とジュニパーネットワークスでコンサルティングシステムズエンジニアを務める林宏修氏は期待する。
ジュニパーネットワークス Mist Solutions 事業部長 鈴木良和氏(右)、コンサルティングシステムズエンジニア 林宏修氏
Wi-Fi 6Eは2022年にも ネットワーク運用効率化が必須日本でWi-Fi 6Eが制度的に利用可能になるのは2022年の夏から秋の見込みだ。制度開始後は、大手ベンダーがおよそ数カ月で技適を取得しWi-Fi 6E対応のアクセスポイント(AP)を市場に出すとみられることから、企業は2022年末にもWi-Fi 6Eを利用できる可能性がある。
ただ、「Wi-Fi 6EのAPを導入すれば、すぐに高品質な無線ネットワークが実現できるかというと、そうではありません」と林氏は指摘する。企業にとって、課題となるのが運用体制だ。Wi-Fi 6/6Eを導入する企業が期待しているのは、今まで以上のIoT活用や、ミッションクリティカルなアプリケーションの無線化だ。さらに、もちろんPCやスマホユーザーも、快適なWi-Fi利用を求めている。しかし、そのためには無線のアップデートだけでなく、ネットワーク全体を効率的に運用監視する仕組みが欠かせないという。
「本来ネットワークを管理するためには、1つ1つの端末を可視化し、障害時にはどこで通信が止まったのか、接続に失敗している端末はないかなどをモニタリングする必要があります。端末が1万台、あるいはそれ以上の台数が繋がっても、リアルタイムにどんな通信が行えているのかを多角的にモニタリングして分析し続けなければ、ミッションクリティカルな用途に耐える高品質なネットワークを実現できませんが、そのためにはネットワーク運用の効率化が欠かせません」(林氏)。
大半の企業向けWi-Fiベンダーは、ネットワーク監視ソフトウェアをセットで提供しているし、サードパーティ製のソリューションも少なくない。だが、ジュニパーネットワークス Mist Solutions 事業部長の鈴木良和氏によれば、その多くは重大な課題を抱えているという。「それはインフラをいかに維持するかという視点で設計されていることです」
一例が、スイッチやルーターなどの機器が故障していないか、どこかでネットワークが不通になっていないかといったレベルでしか監視できないことだ。これでは、せっかくWi-Fi 6/6Eを導入しても、ユーザーはその通信品質を中途半端にしか享受できないし、端末の台数に応じて管理コストも増加していく。