次世代Wi-Fi特別講義5<IEEE 802.11baとは?>新発想で超低消費電力、IoT市場でLPWAに対抗

消費電力1mW未満――。LPWAも顔負けの低消費電力を目指しているのがIEEE 802.11baだ。従来のWi-Fi規格の低消費電力機能とは異なる発想により、LPWAの独壇場となっているIoT市場への浸透を図ろうとしている。

講 師 東芝
東芝 足立朋子(あだち・ともこ)氏
足立朋子(あだち・ともこ)氏
東芝にて無線LANの研究開発に従事。専門は無線通信プロトコル。2001年からIEEE 802.11無線LAN標準化活動に参加、802.11n標準化ではEditorial Panel Member。現在、電子情報通信学会会計理事

Q IEEE 802.11baの概要を教えてください。

足立 一言で言うと、超低消費電力を実現できるWi-Fi規格です。

端末内でWi-Fi本体とは別に設けた受信専用モジュール(WUR:Wake-Up Radio)がアクセスポイント(AP)から送られてきたウェイクアップパケット(WUP:Wake-Up Packet)を受信すると、本体に「起きろ」と指示を出します。これを受けて本体が起動し、通信を開始する仕組みです(図表)。「Wake-Up Radio(ウェイクアップ無線)」とも呼ばれ、従来のWi-Fi規格の低消費電力機能とはまったく異なる発想です。

図表 Wake-Up Radioのイメージ

図表 Wake-Up Radioのイメージ

Q これまではどのような仕組みで消費電力を抑えていたのですか。

足立 元々Wi-Fiには、パワーセーブという省電力モードが規定されています。間欠的に仮眠状態となり、起動している間にAPからBeaconフレームでデータがあることが通知されると、それを受け取るためのフレームを送信する、あるいはAPとの間であらかじめスケジューリングすることでAPからのデータを受信し電力を節約します。ただ、APはどの端末が仮眠しているかどうか分からず、すべての端末向けの周期的なBeaconフレームを使って一斉に通知するため、データ伝送の遅延が長くなる、あるいは遅延を気にして仮眠周期を短くすると低消費電力の効果が低減するといった問題があります。これに対し、11baは受信専用モジュールからの指示がない限り本体は眠り続け、タイムリーに起動できるため、より低消費電力と低遅延の両立を実現することが可能です。

Q 11baでは、どのくらいまで消費電力を抑えることができるのでしょうか。

足立 明確な目標を打ち出しているわけではありませんが、WUP受信時に1mW未満を目指しています。

Q 1mW未満という目標はどこから来ているのですか

足立 LPWAを意識してのことだと思います。11baは2015年11月にインテルからのコンセプト提案をきっかけに活動を開始しましたが、ちょうどLPWAが注目され始めていた時期で、「Wi-FiでもLPWAのように低消費電力を特徴とする規格が必要になるだろう」という話になりました。

1mW未満であればIoTデバイスのバッテリー寿命を大幅に延ばすことができるので、幅広い分野に採用され、LPWAに取って代われるのではないかという期待がWi-Fi勢にはあります。

Q LPWAは見通しの良い場所では10km程度という長距離や低コストも特徴です。11baは低消費電力以外に、どのような点で強みを発揮するのでしょうか。

足立 Wi-FiはLPWAと比べて帯域が広く、それだけ高速通信が可能です。センサーから上がってくる単純なデータのやり取りではあまり関係ないかもしれませんが、ちょっとした画像の送受信では高速性のメリットを享受できると思います。

※LPWA
Low Power Wide Areaの略称。低消費電力で長距離通信が可能な無線通信技術の総称

月刊テレコミュニケーション2021年10月号から一部再編集のうえ転載
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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