ソフトウェアで必要なネットワーク機能を構成し、汎用ハードウェアで動かす「ハード/ソフト分離」が、キャリア網にも浸透し始めている。
仮想化されたネットワーク機能を汎用サーバーやクラウド上で動かすNFVはこれまでLTEコアネットワークで進展してきたが、汎用的な通信機器であるホワイトボックス装置を活用すれば、より広範な領域で同様の手法が可能になる。国内ではNTTの澤田純社長がホワイトボックススイッチを活用していく方針を示しており、コアルーター向け内製OS「Beluganos」を開発。KDDIも「ThalarctOS」というルーターOSを開発している。
海外では商用展開も始まっている。
最も先行しているのが米AT&Tだ。2017年に買収したソフトウェアルーター「Vyatta」を活用してホワイトボックスの設置を始め、2019年にはこれを「DANOS(Disaggregated Network OS)」としてオープンソース化した。ホワイトボックス用OSとインテグレーションを手掛けるIP Infusionと協業して、この商用版を「DANOS-Vyattaedition」として世界中の通信事業者に提供しようとしている。
IP Infusion会長で親会社ACCESSのCTOを務める植松理昌氏によれば、AT&TはVyattaを、複数のモバイル基地局を束ねてコアネットワークと接続するセルサイトゲートウェイで活用しているという。また、2020年9月には次世代コアにDriveNets(イスラエル)のネットワークOSとUfi Space(台湾)等のホワイトボックス装置を採用したことも発表した。
IXや光伝送にも波及ハード/ソフト分離は通信事業者に多くの効能をもたらす。最大のメリットはインフラコストの削減だ。ハードとソフトの個別・直接購入が可能になり、必要なネットワーク機能を最適なコストで実現できる。
もう1つが新機能の迅速な開発・導入だ。「新サービス開発・提供をミッションとする技術部門からは、アジリティやフレキシビリティへの期待が大きい」(植松氏)。
この新たな流儀は、キャリア網の幅広い領域に広がり始めた。図表はIP Infusionが手掛ける範囲を示したもの。光パケットトランスポート、PON、アクセス、エッジ、メトロ、企業網でもホワイトボックスが使われている。
図表 ホワイトボックス導入が期待される領域(画像をクリックで拡大)
AT&T以外の実例を紹介すると、2018年に英国のIX事業者であるLINXが世界で初めてホワイトボックススイッチと、IP InfusionのネットワークOS「OcNOS」を導入している。
2020年にも次々と採用事例が出てきている。台湾Asia Pacific TelecomはAT&Tと同様、セルサイトルーターに適用。こちらはUfiSpaceのハードにOcNOSを組み合わせ、5000台を展開する予定だ。
トランスポートではブルキナファソのVTS、チリのMundo Pacificoが、L2/L3スイッチと光伝送を組み合わせたホワイトボックス装置「Cassini」とOcNOSを導入した。Cassiniは、キャリアインフラのオープン化推進団体であるTelecom Infra Project(TIP)が定める仕様に基づいて、台湾のODMメーカーが製造している。「TIPと参画企業の協力関係がすごくうまくいっており、TIP標準仕様に準拠したラインカードの中から、調達しやすいもの、コストの安いもの、必要な機能が備わったものといったように選べる状況になってきている」と植松氏。TIPには世界の主要キャリアが多く参画しているが、中南米やアフリカ等への支援も強化しており、発展途上国でも採用が進みそうだ。