携帯電話ネットワークには、全国レベルでセキュアなブロードバンド通信が利用できるという長所がある。これが、一般企業や自治体が構築・運用する自営無線システムとの決定的な違いだ。
最近は「ローカル5G」「プライベートLTE」への注目が高まっており、Wi-FiやLPWAも含めて、一般企業や自治体が自営型の無線ネットワークを活用しようとする動きが活発になっている。ただし、こうした自営無線はどうしても、エリアの広さと構築・運用コストのバランスが課題になる。
特に行政サービスのように広域をカバーしなければならない場合は、自営ネットワークには自ずと限界がある。そこで、通信キャリアのネットワークである。携帯電話ネットワークを特定用途のプライベート網として使えれば、より使いやすく利便性の高い“専用ネットワーク”を実現することができるだろう。
米国にその好例がある。2017年に構築が始まった「FirstNet(First Responder Network)」だ。警察や消防、緊急医療サービス等に用いられる公共安全用の専用ネットワークであり、緊急時のサポートを行う“ファーストレスポンダ―”の作業支援に活用されている。
FirstNetのWebサイト(https://www.firstnet.com/)
2020年11月にエリクソンが発行した「エリクソン モビリティレポート」は、“特集記事”としてこのFirstNetの詳細を伝えている。12月にエリクソン・ジャパンが開催した記者説明会における同社CTOの藤岡雅宣氏の解説を交えて、その中身を紹介しよう。
官民提携で実現した“公共安全用のエコシステム”
FirstNetは警察、消防、救急間の連携、共同作業を円滑に行うことを目的に構築された。その背景には、2001年9月に起こったテロ攻撃時の反省があるという。各機関の無線システムが連携・協働に最適化されていなかったこと、そして一般ユーザーの利用急増によってネットワークリソースが圧迫され、ファーストレスポンダーの通信が阻害されたことが、2004年のレポートで指摘された。
これを受けて2012年にFirstNet Authorityが創設され、連邦や州、地域の公共安全機関と協議を進めた。25年間の運用を前提にパートナーとして選択されたのが、米キャリアのAT&Tだ。
FirstNetの概要。1万4000以上の機関が利用している
FirstNetは、AT&TのLTE商用周波数帯を公共安全機関が共用するかたちで実現しており、700MHz帯の20MHzをファーストレスポンダー専用に用いる。藤岡氏によれば、「全米で1万4000以上の機関にミッションクリティカル機能を提供している」。現在はLTEだが、「今後5G化を計画しており、より低遅延になる」という。