移動通信はアナログ方式の1G以降、約10年ごとに世代交代を繰り返し、そのたびに高速化を実現してきた。
今年3月に国内で商用サービスが始まった5Gは、理論値で下り最大20Gbps以上、上り最大10Gbps以上の最大速度を目標に掲げる。
5Gの高速化で重要な役割を果たすのが、30GHz帯前後の「ミリ波」だ。
ミリ波は直進性が強く、遮蔽物を回り込まなかったり、電波の届く範囲が限られるため、これまで通信サービスにはほとんど活用されてこなかった。しかし、低い周波数帯はすでに他の用途に利用されており、ひっ迫した状況にある。そこで5Gでは、まとまった帯域を確保でき、通信速度を向上させやすい28GHz帯などのミリ波が使われることになった。
エリクソンは今年2月、同社の研究所内で行った実証実験において、5Gの商用システム(NSA方式)としては最速となる下り4.3Gbpsを記録したと発表した。その際に用いられたのが、28GHz帯の800MHz幅だ。「高速化は、いかに広い帯域を確保するかが最大のポイント」とエリクソン・ジャパンCTOの藤岡雅宣氏は語る。
エリクソン・ジャパン CTO 藤岡雅宣氏
国内では、28GHz帯は1社あたり400MHzずつ割り当てられている。単独では高速化に十分な帯域を確保することが難しい場合、「サブ6の3.7/4.5GHz帯や低いLTE周波数帯を組み合わせることも高速化を実現する1つの方法」(藤岡氏)だ。
高速化には、変調方式をはじめ様々な要素技術も影響する。
なかでも波長の短いミリ波を遠くまで飛ばすうえでカギを握る技術が、「ビームフォーミング」だ。電波をアンテナから特定の方向に強めたり弱めたりすることで、電波強度を高めるとともに電波干渉を減らし、高速化を実現する。電波を細く絞って集中的に発射するため、複数のアンテナ素子を並べたアレイ状のアンテナが必要となる。エリクソンの実証実験では、1個当たり5mmほどのアンテナ素子が384個搭載されたアンテナが使われたという。
また、ミリ波はアンテナ間に遮蔽物のない見通し通信を行うことから、複数の伝搬経路を組み合わせて利用する従来のMIMO技術の利用が難しい。このため、単一のアンテナから2つの独立した偏波信号を送受信し、複数の通信経路を作り出すことで見通し間でもMIMOを可能にする「偏波MIMO」技術が注目を集めている。
今年6月には、東京工業大学とNECが「偏波MIMO対応ミリ波フェーズドアレイ無線機」を開発したと発表した。
従来の回路方式では帯域幅が広くなるほど2つの偏波信号が混信するため、64QAM変調による通信が限界とされ、28GHz帯の400MHzでは最大2.1Gbpsにとどまっていた。
今回、偏波信号間の混信を無線機回路内で打ち消すことで信号品質を改善させる新たな回路方式を開発。その結果、400MHzの帯域幅を用いた256QAMによる偏波MIMOでの通信に成功したという。