「サーバーはすべてクラウドに移行したため、データセンターにはルーターだけが残っている。どうにかできないのか」
ヤマハの小島務氏のもとには、4~5年前からこんな相談が寄せられていたという。
クラウド化が加速するなか、データセンターや本社のサーバールームにあるセンタールーターの“処遇”が今、問題になっている。サーバーはクラウドへ移行し、ラックはガラ空き。「物理ルーターのためだけにラックスペースを維持し続けるのはコスト的に見合わない」という悩みを抱えた企業が増えているのだ。
しかも、こうした課題に直面しているのは、中小規模の企業のほうが意外にも多いという。大量の既存設備を有する大企業が、クラウドへ完全移行するのは容易ではない。中小企業の方がクラウド化を推進しやすいためだ。「数十から数百拠点くらいの企業のほうが、サーバーは全部クラウドに行ってしまって、オンプレミスで残っている資産はネットワークだけ、という話が多いと感じている」と小島氏は語る。
そこで同社が中小企業向けに開発したのが、仮想ルーター「vRX」である。第一弾としてAWS版を9月30日から提供開始した。これによりデータセンターに物理ルーターを残す必要なく、かつヤマハの物理ルーターと同じ使い勝手のルーティング機能を実現できるようになった。
(左から)ヤマハ 音響事業本部 コミュニケーション事業統括部 ネットワーク戦略グループ 主幹 小島務氏、
音響開発統括部 CC開発部 ネットワークサービスグループ 東京主任 深沢豪氏
物理ルーターと同じクラウド上の自社システムと社内ネットワークを結ぶプライベート網を構築する方法は大きく2つに分かれる。1つは専用線を用いる方法。AWSの場合、「AWS Direct Connect」の名称で専用線サービスが提供されている。
もう1つはインターネットVPNだ。AWSをはじめ主要なIaaSはインターネットVPN機能を備えており、拠点側のVPNルーターと直接インターネットVPNを張ることが可能だ。
ただし、クラウドが提供するVPN機能は、ネットワーク機器メーカーのルーターで提供される機能と比較すると極めてシンプルに作られており、使い勝手や機能性の面でユーザーの要望を拾い切れているわけではない。また、数多くの拠点を持つユーザーからすれば、動作保証やサポート面などを考慮し、センター側と拠点側のルーターはできれば同一メーカーで揃えたい。
こうした理由から、サーバーはすべてクラウドに移行していても、物理ルーターをデータセンターに残さざるを得ないユーザーは多かった。しかし、メーカー製の仮想ルーターという選択肢があれば、クラウドと拠点をつなぐセンタールーターについても憂いなくクラウド化できる。ヤマハの深沢豪氏によれば、vRXは同社の物理ルーターとの「100%に近い互換性を重視して設計した」。このため、「長年我々のルーターを使ってきたお客様のノウハウが、そのままバーチャルの世界でも使える」という。