シスコシステムズは2010年10月6日、事業戦略説明会を開催した。前日本法人社長で現アジア パシフィック アンド ジャパン プレジデントのエザード・オーバービーク氏による短めのプレゼンに続いて登壇したのは、8月に社長に就任したばかりの平井康文氏だ。今回の事業戦略説明会は、平井新社長のお披露目の舞台ともなった。

シスコは8月から新しい会計年度に入っているが、平井社長が新年度のテーマとして掲げたのが「Ignite Japan!」だ。Igniteとは発火させるといった意味。「日本をもう1回、爆発させたい。ネットワークがプラットフォームとなり、インターネット上でいろんなビジネスモデルが起こっている今、シスコが果たす役割はものすごく大きくなっていると自負している。（シスコが）日本の企業、ビジネス、社会、生活そのものを元気にしていく」と語り、そのための具体的な戦略分野として次の3つを紹介した。

シスコの今年のテーマは「Ignite Japan!」

まずは「アーキテクチャとソリューション」である。シスコが定義するアーキテクチャとは、ソリューションのもう一歩先にあるもの。「企業の経営革新を常に伴う点が一番の違い」とのことだ。そう説明したうえで平井社長は、シスコが積極的に推進していく基幹アーキテクチャとして、「ボーダレスネットワーク」「IP NGN」「データセンター／仮想化」「コラボレーション／ビデオ」の4つを挙げた。そして、この4つの基幹アーキテクチャの上にある大きな収益機会として、「クラウド」と「スマート＆コネクテッドコミュニティ」の2つに今年は期待していると説明。クラウドにおいては、「フルバーチャリゼーション」と「IP NGNを中心としたネットワークインフラ」、この両方のソリューションを提供できる点が、シスコと競合ベンダーとの大きな違いになるという。

1番目の戦略的分野となる「アーキテクチャとソリューション」

もう1つのスマート＆コネクテッドコミュニティとは聞き慣れない言葉だが、最近耳にする機会が増えてきた「スマートシティ」と同様の意味である。「電気・ガス・水道に次ぐ、第4のユーティリティとしてIPネットワークを考える。このIPによって、大きく都市の機能が変わる」というのがスマート＆コネクテッドコミュニティのコンセプトだ。

スマート＆コネクテッドコミュニティ

スマート＆コネクテッドコミュニティは、交通、ユーティリティ（スマートグリッド、エネルギー）、医療、教育、不動産、セキュリティ、政府、スポーツ＆エンターテイメントからなり、例えば交通の例として平井社長はサンフランシスコの市営バスのケースを挙げた。バスの中にモバイルルーターを搭載し、「今どこにいるのか」「次の乗り継ぎバスは何分後にくるのか」といった情報をバス内に設置されたデジタルサイネージで提供しているという。さらに国内の例として、北海道大学病院におけるテレプレゼンスを活用した健康相談の実証実験、和歌山の小学校でのテレプレゼンスを使った外国人教師による遠隔教育、三機工業とのビル管理における協業などを紹介した。

スマート＆コネクテッドコミュニティに象徴されるように、近年シスコは単なるネットワーク機器ベンダーの範疇にはとどまらないビジョンを示している。このビジョンを実現していくうえでは、従来のパートナーの力だけでは不十分といえるが、そこで2番目の戦略分野として紹介されたのが「新しいパートナーシップ」である。ICT業界のみならず、家電業界やデベロッパー業界、政府・地方自治体などと、協業型のパートナーシップを構築していくという。

なお、平井社長は「クラウドにおいても、スマート＆コネクテッドコミュニティにおいて、シスコ自身がサービスプロバイダーになる予定はない」と、今後もパートナー経由での販売というスキームは崩さない考えを示した。