これからのキャリアネットワークのトレンドを語る上で当然欠かすことができないのが、5G(第5世代移動通信システム)だ。
米国や韓国など一部の国ではすでに商用サービスが始まったが、日本では4月10日にNTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの4社に対し、総務省から周波数が割り当てられたばかり。ドコモは「ラグビーワールドカップ2019」の開催に合わせ、9月20日にプレサービスを開始する。KDDIとソフトバンクも夏以降にプレサービスを始める。そして2020年の春から夏にかけて、各社とも商用サービスをスタートする予定だ。国内でも5Gの実用化がようやく目前まで近付いてきた。
3GやLTEは携帯電話やスマホなど「人」を対象としていたのに対し、5Gではあらゆる「モノ」が対象となる。加えて、超高速・超低遅延・多数同時接続という特徴を活かし、様々な産業やエンターテインメントに変革をもたらすと期待されているが、日本のキャリアは5Gネットワークを具体的にどう展開していく考えなのか。
4社4様の5G基地局展開今回、5G用に割り当てられた周波数帯は3.7GHz帯および4.5GHz帯(100MHz幅で6枠)と28GHz帯(400MHz幅で4枠)の3つだ。
3.7/4.5GHz帯では、ドコモとKDDIが2枠、ソフトバンクと楽天モバイルが1枠。28GHz帯は各社1枠ずつとなった(図表1)。
図表1 5G用周波数の割当結果
総務省が周波数割当の審査で重視したのが、認定から5年後の「5G基盤展開率」「特定基地局の開設数」「MVNOへのサービス提供計画」だ。
5G基盤展開率とは、全国を10km四方のメッシュで区切り、1つでも5G基地局があるメッシュの割合を示したものだ。総務省は地方創生や地域社会課題解決を5G利活用の大きなテーマとして掲げていることから、LTEまでの500m四方メッシュでの人口カバー率をあらため、これを新たな指標として採用した。5G基盤率を高めるには、人口の少ないルーラルエリアにも5Gを展開しなければならない。
ドコモは、2024年度末までの5G基盤展開率が97.0%、設備投資額が約7950億円と、いずれも4社の中で最も高い数字となった(図表2)。
「『必要な場所に、必要な機能、必要な周波数で』という従来の方針を実現するため、需要が喚起されたら早期に展開できるよう全国に基盤を設置していく」とネットワーク部 技術推進担当課長の松尾充倫氏は話す。
図表2 4社の5G特定基地局の開設計画
また、ドコモは唯一4.5GHz帯を獲得した。「3.7GHz帯と4.5GHz帯にはそれぞれ既存の免許人がおり、共用条件が異なる。3.7GHz帯ではエリア化が難しいところも4.5GHz帯なら対応できるなど、柔軟な基地局展開が可能になる」(松尾氏)と、4.5GHz帯を希望した理由を説明する。
(右から)NTTドコモ ネットワーク部 技術推進担当課長の松尾充倫氏、無線アクセス開発部 無線ネットワーク制御担当 担当課長の澤向信輔氏、5G・IoTソリューション推進室 ソリューション営業推進担当主査の池田峻也氏 |
KDDIは、5G基盤展開率が93.2%、設備投資額は約4667億円だ。特筆すべきは基地局数で、3.7/4.5GHz帯が3万107局、28GHz帯が1万2756局と突出して高い数字となっている。
この点について、技術統括本部 技術企画本部 技術企画副部長の野口孝幸氏は「我々は5Gを次世代の社会基盤インフラと位置付けている。その実現には、帯域と基地局を多く確保することが必須条件になる」と説明する。
今回割り当てられた周波数は、帯域幅は広いものの、高い周波数帯のため“飛び方”が比較的難しいとされる。「全国津々浦々に基盤を整備し、お客様に確実にサービスを届けようとすると、それなりの数の基地局が必要になると考えた」(野口氏)という。
5G基盤展開率という指標では、そのメッシュ内に1つでも基地局があれば、そのメッシュはカバーされたと見なされる。必ずしも隅々まで電波が届くわけではなく、場合によっては、そのメッシュ内の一部での利用にとどまる可能性がある。メッシュ内に多くの基地局を設置すれば、それだけ確実にエリア化することが可能だ。その実現のため、全国に約11万局あるLTE基地局のロケーションを活用する。
(右から)KDDI 技術統括本部 技術企画本部 技術企画副部長の野口孝幸氏、技術企画本部 技術企画部 システム戦略グループリーダーの松ヶ谷篤史氏 |
ソフトバンクは、5G基盤展開率が64.0%、設備投資額が約2,061億円。基地局数は3.7/4.5GHz帯が7355局、28GHz帯が3855局と4社の中で最も少ない。5G活用計画もドコモやKDDIと比べて評価が低く、当初希望していた2枠を確保できなかった。
モバイルネットワーク本部 ネットワーク企画統括部 技術企画部 ネットワーク企画課 課長の藤野矩之氏は「5Gに用いられる周波数は非常に干渉の影響が強く、小出力のスモールセルでなければ厳しいと言われている。スモールセルを数多く設置するのは負担が大きいため、Massive MIMOによる効率的なエリア展開を考えているが、その分、局数が増えず低い評価につながったのではないか」と分析する。
ソフトバンク モバイルネットワーク本部 ネットワーク企画統括部 技術企画部 ネットワーク企画課 課長 藤野矩之氏 |
Massive MIMOは、多数のアンテナ素子を協調動作させ、任意の方向に電波のビームを形成することでカバレッジを広げたり、複数ユーザーとの同時通信によるセル容量の拡大を実現する。ソフトバンクは「Massive MIMOが5Gにおけるグローバルのトレンドになることは間違いない」(藤野氏)と見ており、LTEで培ったノウハウを5Gで最大限に活かす方針だ。
新たに参入する楽天モバイルは、5G基盤展開率が56.1%、設備投資額が約1946億円と、4社中最も低い数字となった。最後発という不利な立場にあるが、基地局の共用や仮想化クラウド技術によるネットワークなど、通信キャリアとは一線を画した戦略で効率的にエリアを展開する計画だ。