今年2月、インドの通信キャリアであるタタ・コミュニケーションズ(タタ)とヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)は共同で、LPWA(Low Power Wide Area)技術の1つであるLoRaWANによる世界最大規模のネットワークを構築すると発表した。インド国内の複数都市をカバーする大規模プロジェクトであり、第1段階として人口の約3分の1に当たる4億人をカバーする計画だ。
タタとHPEの目的はスマートシティの実現だ。HPEのIoTプラットフォーム「HPE Universal IoT Platform」を基盤として、様々な都市インフラのデジタル化を進める。スマートメーターや廃棄物管理、車両の運行管理、防犯、ヘルスケアなど多様なサービスを順次展開していくという。HPEの通信事業部門(Communications & Media Solutions)でIoTビジネス担当ディレクターを務めるナイジェル・アップトン氏は、「LoRaをベースに統合都市管理を行う世界初のプロジェクトだ」と話す。
LoRaで「女性の安全」を守るこのプロジェクトが最も先行している都市が、インド東部にある工業都市、Jamshedpur(ジャムシェードプル)だ。製鉄業が盛んな“鉄鋼の町”がいま、先進的なスマートシティに生まれ変わろうとしている。「様々な都市インフラをデジタル化して集中的に管理する“Smart City Command Center”を構築している最中だ」(アップトン氏)。
このセンターでは、電力等のエネルギーや水道、廃棄物管理、パーキングメーター、防犯用の監視カメラなど15種類のインフラを統合管理する計画だ。HPE Universal IoT Platformに接続されるセンサー、ゲートウェイ機器は20万台にも達する見込みで、今後1年から1年半をかけて構築を進めるという。
HPEはこの取り組みにおいて、デバイスやアプリケーションの開発にも関わっている。アップトン氏は「HPEは50社以上のパートナーと提携しており、毎週のように新デバイスが登場している」と話す。
例えば、Jamshedpurで展開中のユースケースの1つに「女性のセキュリティ」(同氏)がある。
インドは女性差別が深刻な状況で、凶悪な暴行事件も相次いでいる。そこで、バッグ等に取り付けられる「パニックボタン」を女性が携行し、暴漢に襲われた際にはボタンを押すだけでLoRaネットワークを介して通報できるようにする。さらに、通報と同時にHPE Universal IoT Platformがセルラー網を介して、周辺に設置されている監視カメラを自動的に制御する。現場付近を撮影し、その映像によって犯罪者を追跡するのだ。
このように複数のネットワークを集約し、デバイスを連動させられることがHPE Universal IoT Platformの特徴だという。図表のようにSIGFOXやセルラー網、Wi-Fi、固定網、さらに衛星通信も駆使して様々なデバイスを連動させることで付加価値の高いサービスを開発している。
図表 HPE Universal IoT Platform とエコシステム[画像をクリックで拡大]
なお、インド以外も含めてHPEが手掛けるスマートシティ関連のアプリとユースケースはすでに30件以上にものぼるという。