EnOceanは、欧州を中心にビルオートメーション/ホームオートメーション分野で広く使われているIoT無線システムで、発電素子やソーラーパネルなどの環境発電(エネルギーハーベスティング)を用いることで、電池を使わずに運用できる点が最大の特徴となっている。日本でも利用が広がっており、アンライセンスバンドの920MHz帯を利用して、見通しで数百m、壁越しでも30m程度の距離での通信が可能となっている。
今回製品化された広域無線仕様「EnOcean Long Range」は、出力を従来のEnOceanの1mWから10mWに増強、高利得のアンテナを用いることで、見通しで3~4km、ビルの林立する都市部でも300~400mの通信を可能にした。ソーラーパネルなどを用いて、電池を交換することなく長期間メンテナンスフリーで利用できる。広域仕様は現状ではエンオーシャン社の独自規格であることから、今後、国際標準化を図っていくという。
広域仕様「EnOcean」の農業分野での利用イメージ。ポールの左側が照度センサー、手前が温湿度センサー、右がセンサーノード |
エンオーシャン社は、日本の技術基準に適合したEnOceanの広域無線仕様を2013年に開発し、NTTとも実証実験を行ってきた。その成果を踏まえて、今年3月にサイミックス(長野県茅野市)が、長距離気象センサーシステム「NSOS-100」として製品化した。
NSOS-100は屋外利用を想定した製品で、アルミダイキャスト製の筐体にソーラーパネル(センサーノードのみ)や通信モジュール、CPUなどを内蔵した本体に、各種のセンサーなどを業務用コネクターで接続して利用する。現在は、農業分野での利用に必要な温度湿度、照度、土中温度、土中水分センサーなどが提供されているが、今後、ミリ波(人感)、二酸化炭素、水圧、磁気、傾斜センサーなどを追加し、多様な用途に対応できるようにする。
NSOS-100の第1号ユーザーはNTT東日本で、広域仕様EnOceanを活用した農業の「見える化」ソリューションの実証実験を行っている。この春からは、商用展開を開始する予定だという。
NSOS-100の送信機(左、センサーノード)と受信機(右、システム側)、手前は内蔵されている通信モジュール |
4月12日に都内で開かれた発表会で、エンオーシャン社 日本セールスディレクターの板垣一美氏は「新たに追加されたセンサーにも、ファームウェアを変更せずに対応できるジェネリックインターフェースが、今回商用化された長距離無線通信センサーシステムの大きな特徴になる」と述べた。
さらに、この制御技術を用いたシステムをEnOcean Long Rangeだけでなく、「SIGFOXやLoRaWANを用いて製品化する準備を進めている」と明かした。エンオーシャン社は環境発電を利用した無線通信の基本特許を保有しているため、ソーラーパネル稼動による広域無線を独占的に展開できるという。
エンオーシャン社 日本セールスディレクター 板垣一美氏
サイミックスの古川久男代表取締役社長は、「安価な汎用通信モジュールを用いて製品化しており920MHz帯の他の無線システムに対しても価格競争力を持つ。日本で開発・製造される製品なので安心して利用いただける」と強調した。
サイミックス 代表取締役社長 古川久男氏