「スマート農機」が農業を変える――田植機やコンバインにデータ収集・分析機能

就農人口の減少や高齢化、農業の大規模化など変化が進む日本。求められるのは、ICTを活用した農業の変革だ。井関農機はIoTを取り入れた「スマート農機」を製品化し、農家のニーズに応える。

就農人口の減少と高齢化によって耕作放棄地が増加している。その一方で、国は農地の集約化を推奨しており、農業生産法人の設立が広がっている。

結果として、農業の担い手の大規模化が進行しているが、これに伴い、田植機やコンバインといった農業機械に求められる要件も変化していると語るのは、農業機械専業メーカーである井関農機の先端技術部長兼夢総研サテライトオフィス長、小野弘喜氏だ。「担い手が大規模化すると、農機にも大型化と高能率化が求められる。また、未熟練者でも運転できる農機が必要になる」という。

井関農機 先端技術部長 兼 夢総研サテライトオフィス長 小野弘喜氏
井関農機 先端技術部長 兼 夢総研サテライトオフィス長 小野弘喜氏

農機の作業データを可視化そうした問題意識のもと、井関農機が開発したのが「ISEKI アグリサポート(以下、アグリサポート)」というシステムだ(図表1)。農機の稼働データや作業データをタブレット端末やスマートフォン(以下、スマートデバイス)で表示し、作業の効率化に役立てる。

図表1 アグリサポートの概念
図表1 アグリサポートの概念

また同社は、農業経営管理機能を持つ「ISEKI スマートファーマーズサポート」というクラウドサービスも用意している。これはアグリサポートが収集する農機のデータを基に経営的な視点からの分析サービスを提供するもの。大規模農家向けに農業経営を支援するサービスだ。

井関農機がアグリサポート対応の田植機とコンバインの販売を開始したのは2014年1月。以降、トラクターや、追肥・消毒作業に用いる乗用管理機、乾燥機と対応機種を増やしてきている。

トラクターを例にアグリサポートの仕組みを見てみよう。

アグリサポート対応トラクターは、コントローラエリアネットワーク(CAN)を搭載しており、油圧コントローラやエンジンコントローラなど農機内の各機器の稼働データをCANを通じて「アグリサポートコントローラ」と呼ぶユニットに送る。収集したデータは、ユニットからBluetoothによってスマートデバイスに伝送され、農機の作業時間や走行距離、燃料消費量等のデータを画面にグラフ表示する。農家はそのデータを分析することによって、作業改善活動やコスト低減策の立案に生かす仕組みだ。

農機の作業データを収集し記録、可視化するこの基本機能に加え、井関農機は拡張機能をプラスした「スマート農機」も開発している。狙いは、未熟練者の作業を支援したり営農の低コスト化を後押しすることだ。

スマート農機の一例が、09年に試作を始めて16年3月に販売を開始した「可変施肥田植機」だ(図表2)。

図表2 可変施肥田植機のシステム構成図
図表2 可変施肥田植機のシステム構成図

月刊テレコミュニケーション2016年10月号から一部再編集のうえ転載
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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