メガネ型のウェアラブルデバイス「JINS MEME(ジンズ・ミーム)」が、国内外の医療関係者やスポーツ関係者の間で注目を集め始めている。
このデバイスは、メガネの企画・販売を行うジェイアイエヌが開発した商品で、2015年11月に発売開始となった。
JINS MEMEは、一見すると視力矯正用の一般的なメガネと変わらない。しかし、実際には、フレームの眉間部分と左右の鼻パッドの3カ所に、まばたきや視線の動きを検知する3点式眼電位センサが付いている。さらに、右側のテンプルには姿勢や体のバランスを感知するための3軸加速度センサと3軸ジャイロセンサ(以下、6軸センサ)を搭載。
IoTデバイスであるJINS MEMEは、装着した人の状態をセンシングできるハイテクなメガネなのだ。
日常的に眼電位を測定できるJINS MEMEは、産学連携によって誕生した。
きっかけは任天堂の「脳トレ」を監修したことで知られる東北大学加齢医学研究所の川島隆太教授との出会いだ。田中仁社長などジェイアイエヌのメンバーと川島教授がブレーンストーミングを重ねる過程で、川島教授が提示したのが「眼電位」だった。
眼電位とは、眼球の角膜側と網膜側との間に生じている電位差のこと。川島教授は、認知症の症状を緩和する研究に取り組んでいるが、「認知症患者は眼の動きや身体の重心バランスに特徴があるのではないか」という仮説を持っていた。
一般に人間の眼球は、表面の角膜側は正の電位を、内面の網膜側は負の電位を帯びている。この正の電位を持つ角膜側が視線移動や瞬きで動くことにより、眼の周囲にある皮膚の電位は変化する。この眼電位を容易に測定できれば、目の動きを日常的に把握することが可能だ。それに加え、人は集中していると瞬きの回数が少なくなるため、眼電位データを活用すれば心の状態まで可視化できるようになる。
従来から存在している眼電位の測定方法では、目の周囲の4点にパッチを当てて眼電位を計測する。パッチを計測器に接続する必要があるなど、ユーザーに与える身体的負担の大きさが課題であり、日常生活において気軽に眼電位を計測することはできなかった。そこでメンバーは、メガネにセンサを付ければ眼電位を常時、検出・計測できるのではないかと構想した。
こうしてJINS MEMEの開発はスタートしたが、開発チームが初めに行ったのは、「メガネの眉間と鼻パッドの3カ所に当てたセンサだけで、視線移動が起きた際に生じる電位変化を本当に捉えられるか確認すること」(JINS MEMEグループの井上一鷹氏)だった。なぜなら、従来の測定方法では4カ所で眼電位を計測していたが、JINS MEMEの場合は3カ所のセンサで眼電位を測定する方法であり、未知の領域だったからだ。
2年ほどかけて3カ所のセンサで眼電位の変化を捉えられるという確証を得た。そこからJINS MEMEの開発が加速した。
ジェイアイエヌ JINS MEME グループリーダー 井上一鷹氏 |
開発に際してジェイアイエヌがこだわったのは、様々なセンサを搭載したウェアラブルデバイスでありながら、普通のメガネに見える意匠デザインを実現すること。フレームデザインは、アウディでデザインを手がけてきたプロダクトデザイナーの和田智氏に委託した。出来上がったデバイスの見た目は、違和感のないスマートなメガネだった。