活況を呈する格安SIM・スマホ市場に変化の兆が見えきている。「格安」の次の一手として、MVNO各社はどのような手を打とうとしているのか─―。中編では、MVNOの大手4社、IIJ、NTTコミュニケーションズ、U-NEXT、日本通信の戦略をそれぞれ見ていく。
IIJ「心理的障壁をいかになくすか」大手ISPのインターネットイニシアティブ(IIJ)は、2008年に法人向けサービスの提供を開始した老舗MVNOであり、12年には「IIJmio」ブランドでコンシューマー向けのSIM型サービスに乗り出した。15年末時点での契約数は前年同期比94%増の107.3万回線、その約65%をIIJmioが占めている。
IIJ ネットワーク本部 技術企画室 担当課長の佐々木太志氏は、IIJmioの現状を「Web中心の販売チャネルをイオンやビックカメラなどでの店頭販売に拡大した12年から13年にかけて販売が大きく伸びた。1年半ほど前にそれを上回る第2の伸びがあり、好調な販売が続いている」と説明する。
インターネットイニシアティブ ネットワーク本部 技術企画室 担当課長 佐々木太志氏 |
第2の伸張の契機となったのが、14年秋のアップルによる日本でのSIMフリー版iPhone 6の販売開始である。Android端末でもハイスペックのSIMフリー機が多く供給されるようになったことと合わせて、携帯電話事業者のユーザーがMVNOに移行しようとする際のハードルが一気に下がったのだ。
このタイミングにIIJは携帯電話事業者で一般的な7GBのデータ量のプランを3000円切る値付けで投入、料金面でのハードルも引き下げた。佐々木氏はこうした端末・料金での競争力向上に加えて、「お客様の声を丁寧に聞いてサポートやサービスを行ってきたこと」が好調な販売成績を支えていると見る。
こうしたなか、新たな課題も見え始めてきたという。
「より多くのお客様に使っていただくためには『難しい』『面倒くさい』『聞いたことがない』といった心理的、感情的なハードルを超えなければいけない。我々にとって最も重要な問題になってきている」というのだ。解決に向けた取り組みの1つとしてIIJが力を入れているのが、リアルな顧客接点の強化だ。
IIJでは家電量販店をはじめ、MVNOとして最多となる360店でSIMの販売を行っている。これらを通じてユーザーと対話できる体制を築き上げようというのだ。さらに佐々木氏は「不安を払拭するには、CMなどによる認知度の拡大だけでなく、抜本的なサービスの底上げも必要になってくるだろう」と見る。こうしたアプローチは、価格競争が激化する中でIIJの差別化ポイントにもなるはずだ。