サイバー攻撃から日本をどう守るか?――政府の「司令塔」に聞くIoT時代のセキュリティ

我が国のサイバーセキュリティの「司令塔」の役割を担う内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)。その副センター長を務める谷脇康彦氏に、日本国家が直面している脅威の現状や今後の取り組みなどを聞いた。

――この1年間だけでも、日本年金機構や東京商工会議所、早稲田大学など、サイバー攻撃による大規模な被害が相次いでいます。日本におけるサイバー攻撃の現状はどうなっていますか。

谷脇 サイバー空間の脅威の特徴には3点あります。

第1に、攻撃が急増するとともに複雑・巧妙化し、リスクが深刻化していることです。

各府省庁など政府機関の情報システムの入口にはセンサーが設置され、我々内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)で24時間365日監視活動を行っているのですが、検知する脅威の件数は年間約399万件に上ります。これは8秒に1回のペースでアラートが上がっている計算です。

また、深刻な脅威の可能性があるとして各府省庁に通報し注意を喚起した件数は2013年度の139件から、2014年度は264件とほぼ倍増しています。

ちなみに、264件のうち約4割が標的型メールによる脅威です。以前は日本も攻撃対象国の1つにすぎなかったのが、最近は明らかに日本をターゲットとした攻撃が散見されるようになっています。

第2に、リスクの拡散、つまりサイバー攻撃の対象範囲が広がっていることです。

PCやスマートフォンの普及が進み、職場や家庭におけるインターネット普及率は80%を超えています。サイバー攻撃というと、インターネットに接続されたPCやスマートフォンがターゲットになると思いがちですが、それだけではありません。例えば自動車は1台に100個以上のコンピュータを搭載し、ソフトウェアの量は約1000万行に上ります。米国では、最近その脆弱性を狙った攻撃の可能性が指摘され、140万台ものリコールも実施されました。

また、スマートメーター(次世代電力量計)が東京電力管内で2020年度までに2700万台導入されるのをはじめ、各電力会社の管内で順次導入が進んでいます。

スマートメーターは、30分ごとに電力消費量のデータがMDMS(メーターデータ管理システム)を経由して電力会社に送信される仕組みです。その通信網に脆弱性があればハッカーの侵入を許してしまい、発電所や変電所の監視・制御システムに大規模な被害が生じる可能性も否定できません。このように、「電力セキュリティ」は切実な問題となりつつあります。

月刊テレコミュニケーション2015年12月号から一部再編集のうえ転載(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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谷脇康彦(たにわき・やすひこ)氏

1984年、総務省(旧郵政省)入省。郵政大臣秘書官、在米国日本国大使館ICT政策担当参事官、総合省総合通信基盤局料金サービス課長、同事業政策課長、情報通信国際戦略局情報通信政策課長、大臣官房企画課長、大臣官房審議官(情報流通行政局担当)などを経て、2013年6月より現職。著書に『融合するネットワーク』(かんき出版)、『インターネットは誰のものか』(日経BP社)、「ミッシングリンク~デジタル大国日本再生」(東洋経済新報社)がある

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