日本通信がMVNO事業モデルを転換するワケ――「格安SIM」から「法人向け」へシフト

格安スマホ・格安SIMの草分けである日本通信が企業向けモバイルソリューション事業に軸足を移している。SIer/NIer、CATV事業者、PBXメーカーなど広範な企業との協業で新たな需要の創造を目指す。

大手MVNOの日本通信が事業モデルの転換を急いでいる。同社は格安スマートフォン・格安SIMで知られるSIM型MVNOの事業モデルを確立した企業だが、MVNO間の競争激化により、この分野での販売拡大や収益確保が難しくなりつつある。そこで事業の軸足を、①モバイルIP電話(FMCフォン)、②無線専用線、③モバイルセキュリティの3つを柱とするMSP(Mobile Service Platform)事業に移し、成長を維持する方針を打ち出した。

2014年度のMSP事業の売上は14.7億円。今期はこれを2倍の31.7億円とし、68.3億円を見込む総売上の約半分をMSP事業で稼ぎ出す計画だ。

SIM事業は主にコンシューマー向けに展開されているが、MSP事業のメインターゲットは企業だ。基本的には直販ではなく、SIer/NIerをはじめとする多様なパートナーと連携してBtoBtoC、BtoBtoB型でビジネスを展開していくという。


図表 日本通信のMSP戦略
図表 日本通信のMSP戦略

中小企業向けFMCフォンもでは、日本通信が注力するMSP事業とはどのようなものなのだろうか――。6月に代表取締役社長に就任した福田尚久氏は、そのコンセプトを「通信事業者のビジネスは端末と回線の提供で、それを使って何をするかは、基本的にはお客様任せ。しかし、これでは企業の需要は広がらない。新たなモバイルの使い方を提案することで市場を創り出していこうとしている」と説明する。

それを実現するために、同社の強みである独自技術を活かし新たなモバイルソリューションを開発、これをベースにパートナーとともに多様な企業ニーズに応えうるサービス・システムを提供していくというのだ。

具体的なソリューションの展開を見ていこう。冒頭で挙げた3分野の中で、すでにビジネスとして立ち上がっているのが①のモバイルIP電話(FMCフォン)。企業がオフィスなどで利用している固定電話番号(0AB~J番号)を用いて、スマホで電話の発着信ができるようにするもので、通常の携帯電話に比べ料金も割安になる。

昨年から本格展開されている「エンタープライズ向け」では、企業のPBXを専用回線(IP-VPNなど)で日本通信の設備に接続、ドコモネットワーク上のスマホを日本通信のIP交換機を介してPBXに収容することで、こうした運用を可能にしている。

特筆されるのが、この仕組みをベースにパートナーが独自の作り込みを行い顧客企業に提供するケースが増えてきていることだ。例えば証券業界ではコンプライアンス対策上、顧客との通話をすべて録音している会社が多いが、携帯電話での通話には対応できないことが問題となっている。

福田社長は「FMCフォンの仕組みを活用すれば既存の設備を変更せずに対応が可能。金融業界に特化したSIerが、当社のパートナーとして展開を始めている」と明かす。それぞれの業界に強い企業と協業することで需要を創り出しているのだ。

さらに日本通信では主に比較的大きな企業がターゲットとなる「エンタープライズ向け」に加え、より汎用的な商材として「中小企業向け」FMCフォンの展開も計画している。通信機メーカーとの協業により、同時に10台程度のスマホが通話できる小型IP-PBXを開発し、既存PBXのリプレースに活用しようというのだ。

これに先駆けて、スマホを1台接続できる「アダプター」を開発し「SOHO・家庭向け」として展開するプランも進んでいるという。

月刊テレコミュニケーション2015年11月号から一部再編集のうえ転載(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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